第28章 恋模様
停まっていた車のボディの下にカメラを置いて
そこから見える景色を撮った。
写真の上部には、
車の底がきっちり写り込んでいて
下に潜り込んでいることが一目でわかった。
確かに、ネコの目線みたいだった。
おもしろい事を言う人だなぁって
私は宇髄さんを見たまま動けなくなったっけ。
ついこの間の事みたいなのに…
「おい…睦…!」
「はいっ」
急に呼ばれて、私は飛び起きた。
……あれ、この感じ…
「…寝て、ましたよ、ね?」
「はい。よだれを垂らして寝てました」
「うそっ」
慌てて顎に手をやる私を見て
「騙されてやーんの」
笑いながら意地悪くひやかして、
「遊んでろとは言ったが
寝ていいとは言ってねぇぞ」
ちょっとだけ眉を寄せた。
…そうだ、躍動感が欲しかったのに!
寝たりしたらダメだった!
「ごめんなさい!」
立ち上がり頭を下げる私に
「…役立たず」
そう告げた声は、少し笑っていて、
予想外のことに驚いた私はパッと顔を上げる。
すると、同時に顔を逸らされてしまい、
その表情を窺い知ることは出来なかった。
イーゼルにキャンバスがかかっているのが見えて
「…もう出来たんですか?課題」
何となく疑問をぶつける。
「動いてるモデル消えたのに出来ると思うか⁉︎」
「……ですよね。ごめんなさい…」
あぁあ…ほんと何しに来たんだか…。
がっくりと項垂れた時。
「…小腹」
「え?」
向こうを向いたまま
小声で言った彼の言葉は
私の耳まで届かない。
「カフェいこ。お前も来い」
イーゼルを片付けながら
宇髄さんは言うけれど…
「…私帰ります」
「はぁ⁉︎俺の誘いを断んのかよ!」
…どういう意味だろう。
場合によっては、
ものすごく上からな発言だ。
「…おごってやるから来れば?」
不機嫌そうに片付けの続きを始めた。
「おごってなんかいりません。
ほんと役立たずだし。
あ、別に嫌味ではなく、本心です」
思っ切り寝たし。
「いいから来い。
お前ろくに昼飯も食ってねぇのに。
こういう時は素直におごられろ」
じろりと睨まれ、
私はもうついて行くしかない事を悟った。