第28章 恋模様
あれ、…怒らせちゃったかな…
慌てて見上げると、
怒りなんかとは程遠い優しい目を向けられていた。
しまった。
目が合っちゃった…
「睦…」
「…何ですか。近いです」
「近づきたいからな」
そう。
最近この人の距離が近い。
ものすごい圧迫感。
追い詰められているような気になる。
私は穏やかな学生生活を送りたいのです。
確かにこの人の事は気になるけれど
別にお付き合いをしたいわけではなくて、
さっきのように、物陰から覗き見できたら
それで充分…
だというのに。
最近この人からの押しがひどい。
よくわからないけれど、
距離が近い。
物理的な、と言うよりも
精神的に迫ってくるような気がする…
私としては放っておいてくれるとありがたいのだけど。
「ちょっと頼みあんだけど…」
「…何でしょうかね」
「モデルやってくんね?」
「なんの」
「絵に決まってんだろ」
そうでしょうとも。
「課題なんだよ。人物画」
「モデルに相応しい人なんか
もっといますよね。私写真撮るの忙しいんで」
「カメラ構えてるとこがいい」
「なんでわざわざ」
「自分じゃわかんねぇだろうけど
お前、カメラ持ってる時かっこいいぞ」
「かっ、こ…」
初めて言われた。
「お前んとこ、午後休講だろ」
「なんでうちの科のことまで知ってるんですか」
「俺様の情報網をなめんなよ。
どうせヒマだろ。つきあえ」
「どうせって…
私にだってしたい事はありますよ」
「なによ」
「……フィルム買いに行ったり、現像したり」
私のしたいことを聞いて、
宇髄さんはむんずと腕を掴んだ。
「んなもんいつでも出来るじゃねぇか」
「いつでも出来るとかじゃなくて
今日したいんですよ!」
「そうなのか。でも俺は今日しかねぇの」
「えぇ…」
ずるずると引きずられる私を振り返り、
「ただ、遊んでりゃいいからよ」
にっこり笑ってくれて
少しだけ安心するのだった。