第28章 恋模様
「マジで?じゃ約束な」
そう言って、左手の小指を私に差し出した。
……
「おい、約束」
…その指を、私に差し出すの?
促されて私は同じように、左手の小指をそこに絡めた。
やばい。
人生で1番幸せな瞬間かも…
宇髄さんの指は太くて無骨。
並んだ手の大きさも私と全然違う。
なんだか随分、男らしくて…
私は余計に意識してしまった。
この人には、バレないようにしなくちゃ。
私が、この人にこんな想いを寄せていること。
「おぉ、すっげぇ楽しみだ!
俺今回の課題、最速で終わるかもしれねぇ」
「…そんなに、楽しみです、か?」
「そりゃそうだろ!
初めてってわくわくするだろ?」
わくわく…
なんだかこの色男の口から
随分と可愛い言葉が飛び出したな…
こういう所が、私の心を惹きつけるんだ。
「ほら睦、悪ィ、メシまだだった」
いつの間にか、またひとつまみ、
私に差し出していた。
「えぇ…いいですよ。ごちそうさまです」
「食う前から終わるな。ちゃんと食え。
それでなくてもお前チビなんだから」
「宇髄さんから見たら、
ほぼみんなチビですよ」
「他なんかいいんだよ。
俺はお前の話ししてんだから」
宇髄さんは焦れたように言いながら
指先に乗せたご飯の塊を私の唇に
そっと押し立てた。
「っ‼︎」
驚いた私を見て
ニッと口角を上げ、
「俺、料理も上手いのよ。
騙されたと思って食ってみな。
お前なんか一発で胃袋掴まれちまうから」
意味深な台詞を口にする。
でも、極度の緊張のせいで
私の思考は停止中だ。
憧れの人が、こんなに近いとか…
どうしよう…
仕方なく薄く唇を開き
ご飯を口に入れた。
舌の上にそれを乗せたまま、咀嚼ができない。
だってご飯を押し込んだ指が、私の唇に触れている。
もっとどうしていいかわからなくなった私が
目を左右に泳がせていると
「なぁ睦、さっき…何撮ってた?」
何を…
…あなたを撮ってました。
バレてないわけがない。
でも言葉になんかできない。
少しだけ顎を引いて
宇髄さんの指から遠ざかると
「花と、葉っぱ」
「へぇ…じゃソレ、
現像すんのに立ち合わせてもらおうか」
宇髄さんはすこし低い声を出した。