第27章 愛のカタチ
背後から私を囲うように手をついて
ほっぺたを擦り寄せる勢いで
同じように覗き込む天元は
「ちっさ。睦チャンみたいだネー」
皮肉にも似た物言いをする。
「私ってこんなに可愛いんだー」
嫌味で返すも、天元はフッと笑った。
「そう、睦は可愛いな」
すりっと擦り付けたまま
こめかみに唇で触れる。
それをぐいーっと押しやって
「やめてー!」
「なぁんでだよ!」
「場所を考えてよ、めっちゃ迷惑だから周りに」
「外野は気にしねぇって言ったろうがぁ!」
「そういう意味なわけ!もー魚見てよ」
「お前の方が可愛いもんよ」
くだらない言い合いをしていると
「あの…」
横から、誰が聞いても可愛らしいと思うだろう
美しい声が聞こえてきた…。
短かったなぁ…
いやー短かった。
天元が私だけのものでいてくれる時間の、
あまりの短さに
私はもう愕然としていた。
ひとり項垂れて立体駐車場を横切る。
その後ろを頭を雑に掻きむしりながら
天元がついて来た。
「私は幽霊か何かかな…?」
自信なんてもうかき消えた。
ずーんと沈み込んだ心を
どうやって浮上させようか。
「ンなワケねぇだろ!
ちゃんといるわ。ヤツらが恥知らずなんだよ」
「私よりも自分の方が優ってるって
思ってるのよね…」
さっきの可愛い女の子は、
水槽の前で戯れている私たちの間に割って入り、
天元のいかに素晴らしいかを
語り始めたのだ。
新手のナンパだったな…
斬新な手口だった。
下を向いて、
助手席のドアノブに手を掛けた私の隣に立ち、
天元は何故か後部座席のドアの前に立った。
「……何してるの?」
「……」
何かを考え込んでいるような顔をしていたけれど
急に辺りを窺い出して
ガチャっと後部座席側のドアを開けた。
「…誰が運転するの?」
「うるせぇな」
ドアノブにあった私の手をぐいっと引き寄せ
ムダに広い後部座席に乗り込む。
膝の上に乗せられてぎゅうっと抱きしめられて
あぁそういう事かと、妙に納得した。
「…楽しかったよ?」
「楽しくねぇよ」
「えー?天元は楽しいって言ってたでしょ?」
「お前が」
「私は楽しいよ。お出かけ嬉しいもん」
「あんなんでか」
「あんなんでもだよ。
でもねぇ…」
「何だよ」
「自信は無くすよね」