第27章 愛のカタチ
この尾ひれの美しい広がり。
金魚屋で見た事がある。
「ベタよね?見たかった…」
「今見てんじゃん。良かったなぁ、
気の利いたのがお前のカレシで」
うんうんと頷く天元。
そっか…今見てるや。
「いつ買ったの?」
「お前が標本に夢中になってる時だよ。
よくもまぁこの俺を放置して
あそこまで集中できるモンだな」
半分本気で天元は言う。
そうよ、
彼氏がナンパされてるのすら気づかないくらいに
集中してましたよ。
情け無いことよね。
「天元様のおかげでベタを見られましたー。
ありがとうございましたー」
「よしよし。素直でよろしい」
素直にお礼を述べると
天元はにっこりと笑った。
信号は赤。
キッと止まった車。
隣から長い腕が伸びて来て
私のほっぺたをぐっと掴んだ、
と同時にちゅっと降って来たキス。
「礼はキスでいいぞ?」
そう言って、もう1度
さっきのよりも少しだけオトナなキスをする。
大ぶりな、ベタのキーホルダーを握りしめ
そのキスを受け入れていると、
パ——ッ
と、後続車のクラクション。
いつのまにか青に変わっていた信号。
「…睦のせいで怒られちまっただろ」
おまけのちゅうをして、
天元はアクセルを踏んだ。
「なんで私なのー?」
眉を寄せると
「可愛いからよー」
同じように天元も眉を寄せる。
「ふふ…、天元がしたくせに」
「睦が、ンな可愛く笑ってるからだろー」
言いながら、バックミラーを確認して
天元もくすくす笑った。
2人きりの空間で
他愛もない話をしていると
私の気分はウソみたいに晴れて
次の水族館に向けて私の心は突き進んでいた。
しかしだ。
この人は厄介です。
背は高いわ、
抜きん出た顔は整っているわ
表情はそれは優しいわ、…
人目を引くこと間違いなしです。
私と手を繋いでいるというのに、
すれ違う女性たちの目は
上に上に向かうので
小さな私は目には入らないのだ。
まったくもう、…
複雑ですね…。
ただ救いは、カップルが多いことと
小さな水族館だし
お客さんが少ない事だ。
「睦ー」
私が周りに牽制の目を送っていると、
「…おい、何してんだ」
天元が怪しげに目を細めた。