第26章 ふたつの半月
「今すぐに俺を好きになれとは言わねぇよ」
…自分だって、そうやって気持ちを隠すくせに。
背中を抱きしめたその腕が、
すぐに俺を愛してと言ってるよ?
抱きしめられた腕の中が、
ひどく心地いい。
この優しい人から離れたくない。
…現金だね。
笑ってもいいよ。
「…私なんか…どこがいいの」
「そうやってすぐ泣くところ。
…ってのは冗談だが、…
泣いた時は、手拭い貸してやる。
それとも、胸がいいか?」
ははっと冗談めかして笑う。
「…胸がいい」
「…?」
私の返事に、宇髄さんの呼吸が止まった。
「…手拭いなんかじゃ、…拭いきれない。
私、なかなか泣き止まないよ…?」
「睦…」
「あなたには青空が似合う。
優しくて、強くて、まっすぐで…。
それなのに、私はそれを涙で濡らす。
そんなのイヤだ」
「睦が泣いたって、
俺が泣き止ませてやるから。
こうやって、受け止めてやるから」
全身を合わせるように、
強く抱き寄せてくれる。
そうされると
私が、安心できることに気付いてる…?
「そんな事になるくらいなら、そばにいない。
宇髄さんを濡らしたくない。
…なのに…、それなのに…」
涙が止まらない。
きれいな言葉だけではいられない自分がイヤだ。
言ったらいけなひと言を、言ってしまう。
自分が許せなくなるくせに。
「それなのに…?」
先を促す宇髄さん。
私は小さく首を横に振って…
言いたくない、と、告げる。
肝心な時にいつも尻込みする私…。
「睦、俺はお前が好きだよ。
ちゃんと力になりたい。支えたい」
…違う。
そんなんじゃなくて…
私が自分を許せないんだ。
それなのに、
「支えさせてくれねぇの?
俺の幸せは、睦にかかってるのに」
そんな事を言って
また私の心を緩めるの。
この人はすぐに、
自分のせいのような言い回しをする。
私に言わせる為の術だってわかっているのに、
…わかった上で言葉にしようとする自分が
ひどく汚い人間に見えて
また嫌気がさす。
でももう、ムリだよ…
「そばにいて欲しい。いかないで、…」
曝してしまった羞恥と
言ってしまった後悔とで
うわぁんと無様に声を上げて泣き出した私を
力いっぱい抱きしめて、
それでいいよと、頬を擦り寄せてくれた。