第26章 ふたつの半月
「キズ、良くなったか?」
その手を指で撫でながら
急激な話題変換。
「え、キズ…は、よくなってます。
すみませんでした…」
今はぐるぐるに巻いた包帯も取れ、
小さなガーゼを当てている程度。
「宇髄さんがくれた、塗り薬のおかげです。
あの時は申し訳ありませんでした…」
私の手をそっと離し、
そのまま頭を撫でてくれた。
「6…7回?」
「え?」
「何回謝んの?」
にっこりと笑いながら言った。
私、そんなに謝ってた?かな…
だけど、
「謝りに、来たんです」
「謝りたい事と違う事にまで謝罪してんだろ。
お前は何を謝りてぇんだった?」
「大嫌い、って言って…」
「そうだよな。なのにお前は、
わからなくてごめん、俺を頼らなくてごめん、
ケガしてごめん…ずっと謝ってる」
…その通りだ。
でも、その全部が私を責めるんだ。
あんなに良くしてくれた。
この人の事を知るにはあまりにも短い時間。
それなのに、
あんなに楽しくて幸せだったのはどうしてだろう。
会えなくて、あんなに淋しかったのはなぜだろう。
「謝罪よりも、聞きたい言葉があるんだけど」
ゆったりと微笑みかけられたら、
心が緩んで仕方ない。
なのに、言葉にする勇気はないの。
そう思ったら、無意識に俯いていた。
「こら、ちゃんとこっち向け」
そんなこと言われても、
目を合わせるのさえ憚られる。
だって、私まだ…
「まだ、あいつを忘れられない?」
まさに、核心を突かれて、
私は弾かれるように顔を上げた。
図星だった事を証明してしまった私に
困ったように微笑んで、
「俺が忘れさせてやる、…なんて言ったら、
お前は俺を軽蔑するか?」
私の頭を自分の肩に押し付ける。
「俺を好きに、…とは言わねぇから。
あんなふうに1人で泣かれるのだけは嫌なんだよ。
睦のそばにいるから、
頼むから笑っててくれ。
俺じゃ力不足なのかもしれねぇが、…
こんなんでも、いねぇよりはマシだろ?」
マシだなんて…
そんな事あるわけない。
充分すぎるくらいだよ。
「でも私…そんな、こと出来ません…」
「そんな…?」
「今の私と、宇髄さんとじゃ…
想いが違いすぎて…申し訳なくて
そばになんか、いられません…」