第29章 27.
「ジーナス博士はこちらです」
ゴリラに案内され、家に入る。
室内を見てみると研究所のような設備は無く、一般的な家だ。あの薬品の香りも、マシーンが止むことなく稼動する音も無い。
やがて茶の間に通され、若い姿である博士が見えた。
「やあ、久しぶりだね、66号」
湯飲みに入ったお茶を出す。人間の進化をする過程が書かれた湯飲み茶碗だ。
どの面でそれを言うか。散々人に非道な事をし続けたクセにな。
「いや驚いたね、まさかS級ヒーローの有名人"ゾンビマン"の正体が進化の家の被験体だったとは。
サンプル66号といえば私も思い出深いな。不死身シリーズで唯一成功した例だったが…突如研究所を破壊して姿を消した優秀な素材だった……」
自分の湯飲みを持ち、一口啜るジーナス。
「もう10年も前になるか。いつかは復讐に来ると思っていたが…」
「ふざけるな、俺達で散々遊んでおいて良くそう言えたものだな!」
武器の一つ、日本刀を鞘から引き抜き、ジーナスの首筋に宛てる。
薄く切れ目が入って、傷口から血が少し流れ出した。
「うむ、私を殺すか、それもいいだろう。施設が滅んでしまった今となっては私もこれ以上、生に執着がある訳でもない。が、ひとつ質問させてもらっても良いかい?俺達、とは君の他に誰かいるのか?」
博士が冷や汗を流して俺に問いかける。
こいつ、まさか養子の存在すらも忘れちまったのか…?それとも死んだと思っているのか?
「ほら、風雷暴…ハルカの事だよ、てめーの養子で、ハルカという名前があるのにも関わらず77号とかふざけた名前を付けられた、可哀想な新人ヒーローだ」
瞼を大きく開き、ジーナスはなんと…、と呟く。
首筋の血はゆっくりと流れてシャツの襟を真っ赤に染め始めていた。