第27章 25.
風がびゅうびゅうと煩いや。
部屋を出て直ぐにお店の方向へ走り出す。一歩高く飛んで屋根に上がり、明かりの多い方向へ。
なんとなく、過去を思い出したら少しだけ一人になりたくなってしまった。だから、一人である今、帰るまでには落ち着けるはずだ。
街に着く頃には耳が寒さでとても痛い。冬はもっとヤバイんだろうから、イヤーマフラーでも付けるべきだろうか。去年と比べたら今年の冬は暖かく過ごせるはずだから、とても幸運な事だろう。
先に薬局に入って火傷に効く薬を買って、サイタマに頼まれた醤油を買う。
商品の入った袋を下げて、暗くなり始める空を見上げる。用事は済んだからさっさと帰ろう。
少し歩いていると、私くらいの女の子2人組が凄いものを見たと言わんばかりの視線を送ってくるのが見えた。私と目が合った瞬間、パァァ…っと明るくなって2人でキャアキャアとはしゃいでいる…。
こういう時、表情を変えないのもな、と考えありがとうと言われたあの時くらいを目安に少しだけ、表情を緩くしてみる。柔らかくを目標に。
「………っだめ、私先に行く!」
なんだろう、2人組の1人が近付いてきて手を差し伸べて……
「ハルカさん!握手っして下さい!」
「あ、ズルい!私も握手と写真撮る!」
…サイタマ、ジェノス。
私は少し、家に帰るのが遅くなりそうです。
私は火傷をしてない手を出し、柔らかな手を握った。
****
『……っていう事があって、遅くなった』
時刻は6時半。部屋に帰るとフブキとキングが帰った後で、ジェノスが1人で夕食を作っていた、らしい。
心配をしてくれたのか、サイタマも外行きの格好で玄関に居たし、遅くなった理由をリビングにてきちんと話す。
もちろん、目的だった薬をさっそく手に塗りながら。
女子高生2人に絡まれた後、サラリーマンの中高年、おばさん達に囲まれてゲリラ握手会になった事。バラバラに手を差し出すから並んでくれと言ったらきちんと並ぶ市民。
そして火傷しなかった手で握手。時折写真。時折、献上品。
『色々押し付けられるように頂いたけれど、返した方が良かったのかな?』
ガサガサと袋の音を立て、頂いたものをサイタマは覗く。
中身は確か…玉葱、白菜、袋菓子、栄養剤が入っている。
「でかした、ハルカ」
サイタマはキリッと顔付きを変え、喜んでいるようだ。