第26章 24.
ポット側面に添えるように触れていた手に熱湯が少しかかって、思わず引っ込めてしまった。その瞬間僅かに過去のことを思い出してしまった。博士に引き取られる以前の記憶だった。
おいおい、大丈夫か?とジェノスがキッチン側にやってきて現実に戻される。少し怒っているようだ。
「火傷か!?なら流水にさらせ!ぐずぐずするな、跡が残ったら大変だろう!?」
水道水に熱湯がかかった手をさらす。冷たい。そんなに酷くはないのに…と思わず見た手に少し赤みが浮かんでいるのが見えた。
引っ込めようにもジェノスが無理に冷水から逃れないように手首を持ってるから逃げられない。
「赤みが出ているな…薬を塗るにもこの部屋には薬箱がないし……」
私に雷が落ちた時を思い出す。
死ななかったのは幸いだった。けれども体に落ちた跡は酷く、女として人として生きるには困難なくらいにはっきりと残っていた。そういう意味で致命傷だった。
ジーナス博士は私に雷が落ちて数日後にやってきて、私に残った跡を綺麗さっぱり無くしてくれた。
あの雷が落ちた跡は不思議な模様で、本の挿絵の勇者の様。けれどもそのリヒテンベルグ図形からやってくる痛みは、幼い私にはとても辛かったなー…。
実験を重ねていく内に耐性が出来てそれすらも浮き出る事が無くなったけれど。
この事について、サイタマ達に言ったことが無かった。だから今思い出したけれどわざわざ言わなくても良い事だと思っている。
『うん、それじゃあ私が薬を買ってこよう。使うのも私自身だし…良いよね?サイタマ』
折角綺麗になったのにシミのように残ってしまったら嫌だなぁ。ならば薬を塗って治そう。
サイタマに聞いたらサイタマは少し渋って、首を縦に振った。
「ついでに醤油も買ってこいよ!それ以外道草くうんじゃねーぞ」
頷き、わかったと返事をして水攻め状態の手を引っ込める。キンキンに冷えて感覚が鈍い。
時間は5時。最速で行けば夕飯までには帰って来られる。
「俺かジェノスもついてく?」
『いいよ、私1人で行く。出来るだけ速く帰るから』
携帯を確認、銃も確認。財布…もある。よし。
出かける準備をして、私は玄関を飛び出した。