第3章 1.
『気色悪いやつだったな……
で、あんた大丈夫かい?見たところその肩の…あいつの攻撃で溶けてる訳じゃないみたいだが……』
心配面はこの男が失禁してるという所か、と心で呟き手を差し出す。冷えた手で手汗がぐっちょりとした男性を立ち上がらせると凄い勢いで手をぎゅうっと握られる。このシチュエーションに昔の記憶がチラついた。
先ほどまでの怯えた彼は何処にやら。驚きと興奮に満ちた表情で私の手をブンブンと振る。
「有難う御座います!まさかこんな路地裏に入ったばかりに怪人に遭遇するとは…!しかも貴方のような、怪人に恐れもなく堂々と立ち向かうヒーローと出逢えるなんて…!」
ふふふと嬉しそうに言うけれど、私は残念ながらヒーローでは無い。
確かヒーローってのは3年ほど前に作られた職の一つだったか。私の様な住所不特定であちこちフラフラする奴にはそういった組織には向かないだろうし。
『ごめんな、私はヒーローじゃないんだ』
「へ?で、でも怪人を倒すのに慣れた様に見えましたよ?私は目の前で戦うヒーローを何度か見た事があります!そう、貴方はまさにそんなヒーローの如く戦っていた!」
慣れた様に見えたと言われても…
これが初めての戦闘ではない。静かな場所で出くわした怪人とは何度も戦闘している。もし、私がヒーローとして働いてたのならば住処の確保と毎日フラフラする事もないだろうか。でも、ヒーローにあるには知識が必要らしいから、学校に行っていない私には無理な話だ。
今の私じゃいくら戦闘して怪人を駆除しようが一銭にならないけれど。
『怪人を駆除するの、趣味みたいなもんだからさ。だから慣れてる』
はぁ、と私はため息を吐いて足元の怪人のガラス片を通路の奥側へと蹴る。空き缶に当たって一瞬騒がしくなった後少し静寂が流れて、男性は繰り返すように趣味、と呟く。
視線を路地裏奥から目の前の男性へと戻すと、スーツの男性はしょんぼりとした表情だった。
「ああ、そうなんですかそれはもったいない、ヒーロー協会は優秀な人材を見逃している…!なんという事…是非とも私からも、あっ、あの何処へ?」
熱弁する男性の手を解き、横を通り、元来た騒がしい方へと私は向かう。
『私は私の気の向くままに。それじゃ、お元気で』
背後から「貴方の名前は?」という叫びにも似た問いが聞こえ、私は振り返り名乗った。
─ハルカ、と。