第3章 1.
前方を見据え、自分の相棒に手を忍ばせた。
こいつは幾つかの壊れた銃のパーツを組み替えて作った、他の人間には絶対に使えない特別な物だ。私だけが使える相棒の安全装置を外し、前方へと向けた。
前方、行き止まり。いや、突き当たりの左側に通路在り。その通路先から一定の物音が近付いている。カシャンとかパシャンとかまるで硬いなにかに入った水を振っているような音だ。
私の背後からは怪我をしたスーツの男性の荒い呼吸と小さく呻く声、ガチガチと歯の当たる音。
「ハヒィ…!」
背後の男性が絶叫するタイミングで前方から、フラスコのような三角錐の胴体から顔や手足の生えた怪人が覗き込むようにしている。
この狭い路地裏にサァ…と吹いた風。薬品の酸っぱい香りが混ざっている。
「みぃぃ~つけた」
ニタァ…と気味の悪い笑みを浮かべ、フラスコ型の怪人は駆けてきた。一歩踏み出す度にフラスコの胴体に入った液体がチャプンチャプンと激しく暴れ、左右の壁に飛び散る。ビルの壁は飛沫を浴びると煙を出して溶けていく。
私の後ろの男性は走り寄る怪人の姿を見てまた悲鳴を上げ、散らばる空き缶などをガチャンガチャンならして僅か後ろに下がったようだった。
『フン…、逃げるまでもない』
怪人まで目測、約3m。
本来トリガーが在るべき場所に私は指を入れ、そっと引いた刹那。音もなく僅かに私の髪をなびかせ、フラスコに綺麗な穴を開けた。開けた穴からは割れる事なく、綺麗な穴。直径1センチ程のまるでレーザーでも打ち込んだような。小便小僧のように中身が弧を描き飛び出ると地面から溶ける音と煙。
「あっ…俺の、ガラスの体……っ!?」
『おっと、細めすぎた。綺麗な穴が開いただけだな…少し弾を荒くすればお前は割れて死ぬかねぇ?』
「ンのっ、ヤロッ!」
攻撃か、それとも私を止めに掛かろうとしているのか。走り出すフラスコ野郎に数発お見舞いすれば、肉体部分からは血液、胴体部分のガラスは砕け散る。怪人はもう二度と動く事も喋る事も無い、ただ散らかる塵と化していた。
胴体部分には薬剤が入っており、肉体部分に降りかかって肉が溶け出している。……非常に不愉快な匂いだ。