第21章 19.
ドォォ…ン。
紫とピンクの交じったような触手のある怪人が絶命し、その場で糸が切れた様に倒れた。
ゴミ収集所である小屋の屋根から飛び、私は着地する。怪人の屍の前には幼い子どもが動けずにその場に立ち止まっていた。どうやら恐怖のあまり逃げられな方ようだ。
目線だけが私を追う。近付けばその体はカタカタと震えているようだ。
『怪我は無い?』
怪人が襲おうとしていた小さな女の子。クマのぬいぐるみをとてもきつく抱きしめ、目には零れそうな涙を蓄えている。
「あ、有難うお姉ちゃん!」
その子へと、片足を庇いながら近付く女性。女の子に視線を向け、怪我してない!?と叫ぶと女の子はママ!と叫んだ。親の方はミニスカートで、転んだ拍子に膝を擦りむいたらしい。
子供をぎゅっと抱きしめ、私に助けてくださって有難う御座います!と微笑んだ。
ジェノスが言っていた通り、ほぼ毎日…いや、私にとっては毎日なのだけれど、怪人に遭遇していた。それも一日に1体だけではなく2体以上は相手をした。人前で怪人を倒すのには少しばかり躊躇はしていた、けれども回数を重ねていけば何事も慣れ始めてきていた。
引っ越してから5日は経っただろうか、日々の暮らしにも慣れて簡単な料理は2人の補助無しで作れるようにはなれた。箸の使い方だって、食べさせられるという脅し(と言えるのか?)が効かない程に慣れた。
要するに、私にも一般的な、普通の生活が出来るようになってきていたのだ。しかもヒーローという職もついて。
日々の確実な、雨風しのげて温かい布団で眠れて、温かい食事の取れる場所を与えられたといっても、ずっと家に居るのも退屈だ。することが限られている。なによりも今まで外を回っていた、自由を知っていた私には待機するのが苦手であった。
サイタマ達の部屋で相当落ち着かなかったのだろう、窓の近くをソワソワする私に、サイタマからの提案を貰った。
「お前散歩するなら外行って来い。夕方の5時までに帰ってくればいいからさ」
…なので「5時までに家に帰れば良い」という門限を決められ、私は自由に外を見回っていた。