第20章 18.
ブベベベ、と鼻をかみ、時折むせるサイタマはそれでもテレビを見る。リモコンの行方を目で追えば、視線に気がついたジェノスと目が合い、ササッと自身の背後に隠していた。お茶の間にテレビの放送とサイタマの咳き込む音だけが流れる。
──画面ではやがて迫る怪人に銃で体に穴を開け、トドメに雷を弾いた指から放つ。怪人のグロテスクな姿はモザイクが掛けられていた。確かにお茶の間では食事中であろう時間にモザイク無しじゃあクレームが来そうだ。私にもとばっちりが来てもおかしくない。
"助けてくれて有難う、ヒーロー!"
"どう、いたしまして"
テレビは私を放送した後、次のヒーローはウマボーンさんです、と続けた。
少し冷めたみそ汁を飲み、もやし炒めをつまむ。さっきまでからかっていた2人だがぴたりと静かになった。
やがてジェノスが茶碗を置いて一言。
「お前もああいう顔をするんだな」
「ジェノスよりサイボーグみたいなやつだとは思ってたけど、だんだん柔らかくなってきたよなー、ハルカ」
…柔ら、かい。
そっと左手で自分の頬に触れる。どれくらい本気で笑っていないのだろうか。テレビの私は思っていたほど不器用でも恐ろしい訳でもなく、一瞬だけはにかむ様に笑っていた。感覚的に博士のもとに居た時ぶりだったから、不器用にも笑顔を作ったつもりだったけれど、正解だったらしい。
「もうちょっと気を抜いたらどうだ?例えば俺達だけでも話す時は気を抜いてさ。お前の話し方カチカチだぞ」
ズズッ、とみそ汁を啜り、テレビのチャンネルを変えるサイタマ。
私はそんなサイタマを見ながらもやし炒めを箸で挟み、自分の茶碗に確保する。
気を抜く……
『努力はしてみる』
「そこは努力するね~だとか努力するよ~みたいなラフな感じで良いだろ。別にお前、弟子ってわけじゃないし敬語使ったりする必要ないだろ?」
昆布の佃煮を箸でつまみながら、テレビから一度こちらを向いて話す。
ジェノスについてはそういえばサイタマの弟子だから敬語を話しているんだったな。
柔らかく、そして気を抜く…うん、一応努力はしてみよう。
食べ終わったジェノスは自分の食器を重ね始める。私とサイタマは茶碗の残りのをゆっくり食べていた。