第19章 17.
サイタマの欲しいものが買え、足取りの軽いサイタマとジェノスに付いていく。
夕暮れの中、辺りは橙色。自分たちの住居へと歩くにつれ、すれ違う人が少なくなっていく。それもそのはず、私達が住む場所は危険区域だ。今はそれほどでもないらしいが、以前は頻繁に怪人が出たとか。
その度、サイタマが近所で騒ぐんじゃねーよ、ドンドン揺らすな家が壊れるといった内容で倒したと聞いた。
ヒーローとしてその理由はどうかと思うけれども、ジェノス曰く「ワンパンチで怪人を倒せてしまう」…と。ますますサイタマという人物が不思議な存在だ。
『なら、ワンパンチで倒そうが倒さまいが、怪人の死体があるのだから、それでランクを上げられるのでは?』
物的証拠もある。ワンパンチで倒している、それならはA級は行っていてもおかしくなさそうだ。そんな私の問いにサイタマは眉間に少しシワを寄せる。
「不衛生だろ。それにしょっちゅう協会の人呼んで処理してもらうのもな。だからジェノスに燃やして貰ってんだよ」
『へ、へぇ…』
まるで落ち葉を燃やすようなノリではあるが、血肉の塊を燃やすのだ。それはどうかと思う、とも言えない。私も動物系の怪人の場合、人間の部位以外の場所を焼いて食べることもあったからだ。
歩きながらも、暫く世話になるだろう隣人達の事がもっと知りたいと思えてきた。
『では、サイタマはなぜ一撃で倒せてしまう腕でジェノスの師匠であるのに、S級ではないんだ?』
「あ?そりゃー…体力テストは満点だったんだけどよ、俺、筆記テストが悪くてギリギリ合格だったんだよ。最初はC級で大変だったんだぜ…」
「俺は体力テストと筆記テスト、両方満点でS級だったんだ。入試の合格ラインが70点以上、点数で最初のランク分けされているんだろう」
お前はA級だから、90点取っているんじゃないか?と当てられ、やはりあの時直訴すれば先生は俺以上であるランクSに…と、ぶつぶつとジェノスが言う。サイタマはそれは俺が恥ずかしいから止めろ!とジェノスに叫んだ。
人が行き交うことが少ない通り、目の前にある光景。かつての自分なら、目の前の光景を他人ごとのようにして自分とは無縁だと視線を逸らしていただろう。
隣人達と知り合える度、繋がりが増える度に私の中の堅くなった何かがほぐれるような、溶けていくような感じ。