第18章 16.
私の掌から出された風は、相棒の中に充填される。圧縮させる為に人差し指以外の指先から電気を、そして人差し指をトリガーが有るべき場所の背に近づけさせる。
『わざわざ死ぬのに自己紹介ありがとよ。私は昨日ヒーローに成り立てのA級、ハルカだ。期待に添えるかな、"たまたま"さん』
「俺様の名はタマボールだっつってんだろーがァァ!」
来るぞ!というギャラリーの声。怪人の足はやはりゴムの様にひん曲がり、胴体を大地にぶつける。
さて、いよいよ怪人の体が私に向けて落ちてこようとした時だ。私は人差し指をトリガーの背の部分に触れる。小さくパチリとなった時、充填完了済みの空気弾が怪人の体を貫いた。
「ギャアアアアアッッッ!!!?」
空気だけ出ると思ったが、胴体部分には臓器も詰まっていたらしい。バックステップで離れたが、足下に怪人の血が付いてしまった。
ブチュブチュと気色の悪い音と共に、私の開けた穴から血液と共に勢いよく臓器が溢れ出す。実体のない弾丸のようなものだ、体内で風が真空波となって臓器をかき混ぜたんだろう。
手足をじたばたとさせて悪あがきを始める。傷口目がけて指を鳴らすと、青い雷が臓器を焼く。真っ赤な臓器は黒っぽく焼けた。
怪人は更に絶叫しながら、体を痙攣させた。
やがて怪人の叫びは聞こえなくなった。張りのある胴体はすっかりしぼんでいる。ゴムの手足もだらりと垂れ下がり顔の付いた部分をつま先で蹴って確認してみるが、もう反応は無い。
この残骸を放って置いてもテレビでも報道されていたし、私が駆除した事で後始末に協会の者が派遣されるだろう。
新人ヒーローすげぇ!という声や、これからも応援します!という声が掛けられた。沢山の助けてくれて有難うの声。
こういう時はどう反応すれば良いのか。ええと、口元に弧を描くようにする愛想笑いで良いんだっけか。
『どう、いたしまして』
笑うっていうのはどんな感じだっただろうか?とっくの昔の事でぎこちなかっただろうか…あるいは怖かっただろうか。
私の周りを囲んでいた市民は少しだけ沈黙した後、わーわーと嬉しそうにはしゃいでいた。
……と、こうしてる場合じゃないな。
『怪我人が沢山居る。誰か救助要請をしてやってくれ』