第18章 16.
スタッ、とビルの屋上フェンスに立つ。フェンスになんか広告貼って地上の人達は見るのだろうか?
風に交じって血の香りがする。路上に点々と緋色、人々の悲鳴、誰かを呼ぶ声、助けを求める叫び。そして…
愉快に笑う丸々とした怪人が一体。
「ヒャーーーッハッハァ!"タマボール"様の参上だ、人間の叫び最高!オレ様最高!!」
怪人は愉快だろうが、私としては不愉快だ。逃げまどう人々の中には警戒心の薄れた奴も見られる。怪人なんか写真を撮ってどうするんだ。可愛くもないだろうに。
はぁ、とため息を吐いて私はフェンスから地上に向かって飛び降りた。
グチャッ!なんて音もせず、着地地点の砂埃を払うように風を起こして静かに着地をする。
飛び降りよ、だとかなんだ?という声も聞こえた。先ほどまで馬鹿みたいな自己紹介をしていた怪人の動きがぴたりと止まった。そうだ、もうこそこそする事もないのだから、ベルトも外しておこうか。
私の足下に黒いベルトがボトボトと落ちる。準備万端だ。
私の目の前、目測で2m先に道化が使うような真っ赤なボールの怪人が佇んでいた。手足は細く、ゴム状のようだ。飛び跳ねて人々を襲うのだろう。良く見ればボールの体には所々トゲ状のモノと、怪人の赤ではない人々の体液がべっとり付いていた。
ニュースのテロップでは死者は出ていないようだったが、重症者が出ていた。逃すわけには行かないな。
「あんた、だァーーーれ?潰されたいの?潰されて肉団子にして欲しい?」
『私はお前みたいな怪人を狩る者だよ』
帯から銃を取りだし、安全装置を外した。
照準を獲物、ボールの怪人に合わせる。といっても近距離だし合わせずとも必殺必中だろう。
「成る程、ヒーローか!お前、何級?C級は止めてくれよ、さっき3匹も潰しちったし手応え無いもんな!」
怪人が目線を反らす先に、俯せに倒れる人間。一般人と比べると奇妙な格好をしているし、武器らしきものも転がっている(破壊されて居るようだが)
荒い呼吸音がここにいても聞こえる…死んではいないようだ、安心した。
仲間も手に掛けてたというと、尚更逃す事は出来ない(逃すという選択肢は元々無いけれど)
私は視線を怪人に戻すと視線がバチリと合い、怪人はニヤリと下卑た笑みを浮かべた。