第3章 1.
──私には幸せなんて似合わない。
しかめっ面で賑やかな繁華街を歩く。私が歩いても人々は私を知らない。そう、何もなかった様にただ通り過ぎるだけ。
道行く人々は楽しそうに笑顔を振りまき、友人、恋人、家族に寄り添う。笑顔ではない人はピシッとスーツを着こなし、時計を見ながら或いは社交辞令を携帯に伝える。
充実した人生論、学生達の幸せ将来計画。それらと何ひとつ関係ない私はその人達からこぼれ落ちた僅かな幸せの破片と彼らの隅で生きてきた。
仕事だろうが、学校だろうが、遊びだろうが…皆には共通点がある。
家族が居る、知り合いが居る、仲間が居る、そして帰る家がある。皆には幸せがある。私にはそれらを何一つ持ってなくて、いつ吹くか分からない気まぐれな風のように目的もなくただ思いついたまま足を運ぶのだった。
繁華街も路地裏に入れば嘘のようにはしゃぐ声は抑えられ、表に出ないような店や浮浪者、酔いつぶれた人に塵溜まり。ここも私の居場所ではない。私の居場所とは何なんだろうか?
ただ通り過ぎるという目的で進めば、奥から缶を蹴り飛ばす音と、男の叫び声。走って私の居るここまで近付いてくる靴の音。
私には普通の人とは共通点はない。けれど、まさにこの時自分が生きている証を胸に感じた。
嬉しいのか、私の胸の鼓動が高鳴る。
目視できる所までやってきたのは男性、怯えた表情で空を掻くように全力で走って助けてと叫んだ。
「ひぃっあ、あんたも逃げた方が……っ!追いかけ…っ、ヒッ、奴が…!!」
私に気付いた男はしきりに後ろを気にして話し掛けてくる。
男は肩を押さえていた。浮浪者…にしては綺麗なスーツ。恐らくショートカット目的で入ったサラリーマンって所か。
『あんたは早く逃げといた方が良い。何が来るかは予想は付いているから』