第16章 14.
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「……ん、ハルカのやつ寝た?」
「そのようです」
生きていようが死んでいようが、の後に何か言ったような気がしたが俺には何と言っていたのか聞き取れなかった。
先生は立ち上がり、机に伏せて眠るハルカに毛布を掛けて再び漫画を読み始める。
「泣かしちゃったな、俺達…ゾンビマンに怒られっかなー…」
泣く、といっても彼女の涙の理由は俺には分からない。もしかしたら先生は分かってるのかも知れない。
「何故泣いたのでしょう?本人すらも分からないのに涙を流していました」
先生はうーんと唸り、漫画を閉じて机に置いた。彼女の寝顔を見つめる。そんな先生に釣られて俺も見てみると、泣きはらした目元が赤くなっていた。
……そして、何でだろうか。ほぼ感情の無い表情は少しだけ柔らかかった。
「俺にも良く分からないや。哀しいんだが、嬉しいんだが、悔しいんだが…だって俺達、まだハルカってのが分からねぇし。でもよ、その進化の家で作られたゾンビマンやハルカの他にもライオンとかゴリラとかカブトムシが居たよな?ビーナス博士の所で過ごしていて高待遇ってわけじゃなさそうだよな」
「ジーナス博士です」
「…」
ゾンビマンが言っていた、無邪気にはしゃいで笑顔も可愛かったとは普段の仏頂面からは到底想像が出来ない。今の寝顔の状態でも想像するのが難しいものだ。
俺のように、過去に重いものを背負っては居るが、復讐ではない無気力に囚われている。彼女には目的が無い。そんな状態で人は心から笑えるのだろうか?
ゾンビマンは彼女の何を、何処まで知っているのか。どういう関係なのだろうか…。
やはり、彼女の可愛いと言われる笑顔というものを俺は見てみたいと思った。このままでは人でありながら人らしくないと、サイボーグである俺でも考えてしまったからだ。