第16章 14.
再び66号に会った事、ヒーロー協会に入った事、サイタマやジェノスに会った事。
運命がいきなり変わったように繋がりが出来た。居場所も貰った。幸か不幸か、博士の研究で身に付いた力は世間をかき乱す怪人達を駆除する為に役に立つ事になった。
ぼんやりとした人生を送るであろう今までの自分。なんだろうか…今度は明日、何が起こるのかと期待の出来る人生になってきたような。
おい、とサイタマの声がしてハッとした。私は自分の世界に浸っていたようだった。
「大丈夫か?お前…泣いてんぞ?」
『………あ、』
私はその場にしゃがみ込んで、声を上げる事もなくただただ涙を流した。
サイタマは博士を殺しては居ないからと言った。ジェノスはタオルを渡してくれた。それでも涙はダムが崩壊したように私の意思では止まる事なく溢れ、タオルが湿り気を増していく。10年間泣いた事はあっただろうか?今までずっと溜め続けてきた分が放出されるみたいに涙は止まらない。
哀しいのか嬉しいのか、なんの理由で流れたのか分からない。
分からないけれど、私の中のなにか…硬いものが少し柔らかくなって、気持ちが少しだけ軽くなったような気がした。
─
───
どれほど泣いたのだろう?
涙は枯れ、少し眠たい。ぼーっとしながら私は部屋の中から窓から見える空を眺めていた。
「気になるならあいつと一緒に行けば良かったのに。俺、進化の家があった場所知ってるから今から行くなら教えるけど?」
もっともジーナス自体は何処かに移動してるだろうから、痕跡とか調べる用のにさ。そう付け足して漫画の次のページを捲るサイタマ。
私は問いかけに首を横に振る。
『いい。別に会っても話す事も無い。生きていようが死んでいようが…』
そんな事は構わなかった。
けれども繋がりのあったのは事実でもある。話す事も、生きてくれと願うのも、死んでくれと罵るのもしたいとも思わない。
生きているのなら…一目だけ会えれば良い、それくらいだった。
そんな事、サイタマやジェノスに伝える事は出来たのだろうか?私は疲れ果てた微睡みの中、ただ落ちていく。
もう何も聞こえない。夢の世界に何もかも身を任せてしまおう。