第16章 14.
食事を済ませ、洗い物を手伝う。
「そういえばさっき、なんとか博士って言ってたな…えっと、び、ビビ…ビーナス博士だっけ?」
サイタマは漫画を読むのを止め、テーブルに置いた。
その問いかけはジェノスに向けられたものらしく、ジェノスがジーナス博士と言ってましたね、と修正して返していた。
『2人共、博士を知ってるのか?』
私はサイタマとジェノスの2人を見た。
私が皿を立て掛け終わると、ジェノスが手のひらからブォーと音を鳴らして風を出し始める。なんて便利な腕だ…。
「進化の家のジーナス博士の事だったら、先生と俺で潰した」
「おまっ」
サイタマがあっ…!と言って顔面に手を当てる。いや、顔面なのか頭部なのか区別は着かないが…。多分、それを言うなとかそういった感じなのだろう。
私はふと、玄関の方向を見つめた。博士の所に行ったゾンビマンの背中を思い出して。
『色々ゾンビマンが私について言ったのだろう。別に私は博士を父親と思っては居ない。向こうも私に父と呼ばれるよりも博士と呼ばれる事を望んでいた。
私は養子として博士に引き取られはしたが、結局は研究対象、最後には名前ではなく番号で呼ばれた仲だ。
…そうか、博士は、生きてたのか』
過去を思い出す。始めて孤児院に博士が来て、私を選んだ事。同じ孤児や先生とではなく、新しい家族と並んで歩く始めての一歩。
母という存在は無かったけれど、私に残った多くの傷を治すからと一生懸命何かに没頭して、真っ白な髪色以外は綺麗に治してくれた事。
何度目だろうか、父さんと呼んだら博士と呼ぶようにと言われた事。66号に出会った事。段々博士が私に注射やら薬を投与するようになった事。名前すらも呼んでくれなくなった事。
痛みに慣れた事、楽しいという気持ちがなんなのか分からなくなってきた事、ある日博士が私に成功したと言っていた事、66号が私を連れだした事、1人になった事、頼る者が誰1人居なくなり孤独になった事、風来坊に寿命が尽きるまで街から街へと彷徨うしかない事………
けれど、哀しい事ばかりじゃない。つい最近からはなんの刺激も無い人生となっていた私を変える出来事が起こった。