第13章 11.
『そういえば私は何を手伝えば良いのだろうか?といっても料理等した事は無い、出来るとすれば電化製品、精密機器といった物の修理くらいしか出来ないんだが…』
孤児院や、ジーナス博士に引き取られて、調理に携わった事はほとんど無かった。食器を運んだり、食べ終わった後の食器を片付けたり。
施設から逃げ出した後は木の実を食べたり、川の魚に電気を浴びせて取ったり。もちろん上手に出来ずに、渋い木のみに悶たり、キノコに当たって腹を下したり、魚が生焼けに仕上がったり。今でこそ、野宿をしろと言われたらどれが食えるものか、魚はどれくらいの力を入れれば焼けるかくらいは理解出来ていた。
流石に人としての食事がしたくて、街でちまちまと道具の修理などをしているうちに器用にはなれたけれども、料理という文明はここでは初めてであった。
「ふーん、そういうのは器用な方なんだな。俺てっきりそういうのは逆に不器用な方だと思ってたんだけど…まあ、今日は良いんじゃねーの?これからは俺とジェノスが簡単な料理くらい教えてやるからよ」
男しか居ないから期待はすんなよ、と言いながらサイタマはキッチンにバナナを持っていく。鍋敷きやお椀、箸などを持ってサイタマは戻ってきた。
不思議だ。初対面だというのにこんなにも優しくしてくれるものなのか。ヒーローとはこういうものなのか?それとも、ゾンビマン自体になにか影響力があるのだろうか。なんだか胸の奥がほかほかとするような、そんな気持ちだ。
今日会ったばかりの2人だが、信用しても良さそうだ。
『有難う。…明日から色々教えて下さい』
サイタマが鍋敷きを机に置き、ジェノスが鍋を持ってくる。
いただきます、と3人で鍋を囲んだ。白菜と肉を箸で掴み、自分のお椀に持ってくる。少しぷるぷるとしてしまった。昨夜と朝に箸の使い方をみっちりトレーニングしたから大丈夫だとは思っていたが。博士の元に居た時からずっと練習していれば普通に使えたんだろうか?
鍋を見ると、沈んでいたのか、豆腐が水面に上下して主張している。箸をのばすも取れず崩れる。半分になった豆腐を掴もうとして、また崩れそうだと思って箸をぷすりとさして運ぶ。うまくいった。
そんな一連の動作を観察していたのか、サイタマとジェノスは食事風景の写真のように固まっていた。