第13章 11.
軽く頭を下げ部屋へ上がらせて貰う。室内にはほんのりとスナック菓子と汗のような匂い、数歩進むと何かの料理の匂いが漂う。
「ところでお前、引っ越しの荷物はないのか?」
ピンク色のエプロンをしたジェノスが不思議そうに聞く。
私の所持品は限られている。身につけている武器と、ヒーロー協会側から渡されたビニール袋。と、ゾンビマンからの手紙等。
『コレだけ、それ以外は無い』
「そうか…」
一言発して、思い出したかのように部屋の鍵を締めるジェノス。部屋の奥、私からは見えない場所からサイタマが聞こえるように言った。
「ジェノスん時はでっかい荷物持ってきたってのにな!」
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部屋に上がってジェノスに私とサイタマにお茶を出された。お茶を出すと、キッチンの方へ行ってしまった。
そう言えばゾンビマンは何を渡したのだろう?少し渋い熱々の緑茶を一口飲み気になった私は、中身を確かめようとビニールをガサガサと広げ覗いた。
『……あの野郎』
なんだ?とテレビから私の方を向いたサイタマ。
私はビニールの中身を取り出す事なく、そのままサイタマの方に差し出した。5、6本ほどが実る房を透明なビニールが包んだバナナだった。
持ち歩いていたビニールは白く、透かさない為に今頃確認した私は昨日の出来事を思い出してしまった。
渡されたサイタマはガサガサとビニールに手を突っ込み、テーブルにバナナ達を取り出す。僅かに甘い香りが漂う。
「なんだこれ、バナナか。くれんの?」
『ん、どうぞ。ゾンビマンを2度目に殺した理由がコレだったんだ。あいつは懲りてないな…』
「え、なにそれ、お前バナナが原因で殺したの?」
と軽く引いているサイタマだったが、最初に殺した理由(全裸でやってきた)と、全裸のまま俺のバナナ(俺のとは言ってなかったが)食うか?の理由を告げると更に引いた。私にというよりゾンビマンにだろうが(と、思いたい)
バナナに拘るのならゼンラマンからバナナマンと呼んでも良いかも知れないな(それはそれで危ない気もするが)
…と、こんな話をしているうちに食欲のそそる香りが漂い始めていた。昨晩ぶりの鍋系の香りだ。
こんなやり取りをする中、キッチンでジェノスがお玉を持ってもくもくと調理している。