第12章 10.
人混みを抜け、Z市方向へと向ける足。
いつからかだろうか。後ろに常に同じ気配を感知していた。人混みが散って人気のない所に移動するか、と少し道を逸れ、路地裏の中へ。
今は使われていないであろう、壁もトタン屋根もボロボロである工場内に入り頭上を見た。少し埃っぽい風が工場内に吹き込むと、重油の匂いがする。片手にぶら下げたビニール袋がカサカサと鳴る。
内側から見てもボロく、窓ガラスは割れている。窓辺には吹き込んだ砂や土に生えた雑草、苔が見える。トタンも何枚か剥がれ落ちており、床に散らばったガラス片を夕日がキラキラと反射している。
これは余裕で脱出も出来るな。そう確認してから振り返った。
『私に何か用事でも?』
振り返った先にはセミナーの講師をしていたスネックという男。
ニヤリ、と笑いスネックは構えた。
「セミナーの続きだ。この世界にはランクを気にする者達による新人潰しというものが存在する!」
『ああ、確かあんた、ランクが私の一つ上…だったな』
アゴに親指を当て、考える振りをする。考えなくても分かる、私がランクを上げないようにここでシメておこうという気なのだ。
『だから私と一戦交えて潰す、そんな所か?』
ご名答!と男は私を指差し、再び構える。この38位という壁は薄く、脆いようだ。私でも簡単にのし上がれる。もっとランク上に私は上がれる。
かといってこの男をボコボコにする趣味は私には無いし、ヒーロー同士潰し合ってのランク上げも聞いていない。一応協会に身を置く事となった私も、そのヒーローという仲間なのだ。
まあ、どうしても戦うのならば戦ってやっても良いが。
『私の攻撃は殺傷能力がある。それに私をヒーローに薦めてくれたとあるS級の男が住む場所を確保してくれたらしくてね。急ぎたいんだ、ここからZ市までは遠いしな』
帯に挿した相棒に手を伸ばす事なく。
私は少し屈んで、足の裏から渦巻く風を放出し、天井部分から外へ飛び出した。トタン板を支える鉄骨の部分は下から見て把握していた、屋根の上には簡単に着地が出来た。少し脆いのか、あしもとでキシ、と鳴る。
トタンの無い穴から覗けば、何があった?と目をまんまるくして見上げるスネックが見える。
『ヒーローはそういった戦いはしない。その力、怪人に向けろ。さもないとお前を敵と見なし、次は容赦しない』