第10章 8.
旅館から出て30分。まだヒーロー検定会場に到着はしない、が気付いた事がある。私1人で歩いているときは無い視線。それを時々も感じる。時折、隣を歩く奴の名を耳に挟む。
一般人の視線が集まる隣をチラッと見て私は前を向いた。
『あんたって有名だったんだな』
私と同じくらいの女子が、ゾンビマンさんだー、と行って携帯で写真を撮っている。
私も普通の家に生まれ、両親が居れば彼女達の様に学生服に身を包んでいたんだろうか。
「お前には普通に見えても、世間的にはS級8位だからな。ちなみにこれでも俺は目立たない方だぞ?」
『これで目立たない方……』
フーン、と返事をしてそんなに知名度が高かったのか、と隣を歩くゾンビマンをじろじろと見てみる。私が聞いた事あるヒーローはアマイマスク、キング、番犬マンくらいだ。
街中でもアマイマスクの写真やらCMやらが流れていて嫌でも目に入る。キングや番犬マンについては周りの一般人が話してるのを聞いたくらいで。…あ、最近イケメンの新入りが入ったとかで盛り上がっていたな(名前は知らないが)
それにしても66号がヒーローか。随分と血色が悪くて、怪人のパンチ一発で吹っ飛んで最悪の場合死にそうだ。実際そのヒーロー名通り死なないけれど。
私が見ていると、ゾンビマンはフンと鼻で笑った。
「なんだ、改めて見て俺がいい男にでも見えたか?」
同じように私もフンと鼻で笑って、じろじろ見るのを止めた。
『どこがだ。ヒーローにしちゃあ貧相だな、と思っただけさ』
否定はしねぇよ、運動は苦手だ。そう言って前を見て歩き出す。
会話を挟んでいる内にいつの間にか会場が見えてきた。今まで見てきた一般人とは違う、体格の良い者や、仮装大会にでもでるのかという奇抜な格好の者が会場に集まっているような気がする。
立ち止まる事なく、私とゾンビマンは門を潜り、ドアの中の受付へ向かった。
「夕方くらいには終わるだろうし、試験が終わった頃合いを見てこの辺りで待ってるぜ。しっかり実力出してこいよ!」
背中をバシンと叩かれ、少しよろめく。何をするんだと睨むように後ろを振り向けばニヒルな笑みをして煙草を吸い始めるゾンビマン。
受付の女性に「ここは禁煙ですよ!」と注意される姿を見て、小さく『ざまあみろ』と呟きながら私は筆記テスト会場へと向かった。