第9章 7.
「朝飯食って、そのままここを出る。忘れもんとかないか?」
荷物はもう無い。昨日、ゾンビマンに筆記試験について教わりながら食べてしまったし。
同時に持ち歩く荷物が無いのは少し、寂しいと思ってしまった。私は手ぶらだった。
『特にない』
「そうか。じゃあ、俺の荷物少しくらい持っておけ」
コートの内側改造してねぇから、全部手持ちなんだ、と私は刀と本が入った袋を持たされた。
なんだか少しだけ懐かしい思い出が浮かぶ。ジーナス博士のクローンが買ってきたおやつを受け取り、オリジナルの博士の元まで駆けていった事。ビニール袋に入った物は今も昔もさほど重くはないけれど、その荷物は手から滑り落ちた。
「大丈夫か?熱でもあるんじゃないのか?」
『……いや、大丈夫だ』
手を額に持ってこようとした所を止め、私は落とした荷物を拾い上げる。
『昔の事、思い出してね』
落とさないようにしっかり握って、部屋を出ようとドアを開ける。
背中でテレビの雑音がピタリと消え、布の擦れる音。
「ハルカ、お前はジーナスをどう思ってるんだ?」
廊下からは朝食に向かう人達の声、そして料理の香りが微かに漂ってくる。部屋よりも空気が良く、ひんやりしていた。
私は後ろを振り返る事なく、その問いに答える。
『どう思ってる?どうなんだろうな、一つには表せない。言葉にするとしたら、少しだけ父親であり、沢山私に酷い事をした、繋がりのある人…とでも言うべきか』
一歩踏み出してドアから手を離すと、ゆっくりと閉まる。5秒と待たずに再び開き、ゾンビマンが出てきた。
「俺は人をオモチャみたいに改造するあいつが許せねぇ。ジーナス博士は確実に生きているハズだ、研究所を点々と移しながらな」
ゾンビマン……あんた…
『部屋の鍵は?』
あ、という声と共にゾンビマンは諦めて、先に飯行こうぜ、と私の背を押した。