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風雷暴見聞録

第2章 0.



「走るぞ!」
『……ん、』

まだ施設から出てすぐの、こんな所で2人とも捕まってられない。
目的地なんて分からぬままに真っ暗闇へ走り出す。星と月の明かりしかない森の中へ。道なんてない、ただ俺たちには手を繋ぎあった互いと自由だけしか無かった。
走って走って、息を切らせた。銃声も聞こえた。逃げる意思はないと思われるハルカではなく俺の背中に何度も命中した。走る森の中、ハルカの呼吸音とは違う俺の呼吸音は何か詰まったような音がして、咳き込むと液体が口から飛び出す。薄明かりに照らされたそれは赤黒く口内は鉄の味がした。

『ねぇ、大丈夫?』
「大丈夫だ、心配すんな」

ハルカの体力だとかお構いなしに走って。
追っ手の怪人を廃棄された鉄クズや石で何とか倒して、逃げて走ってようやく気が付いた。

俺が大事に握っていた手は、もう無かった。
俺自身が腕をもぎられ、とっくに回復したこの手にはあいつの温もりさえも忘れていて。森中を闇雲に駆けて、名前を呼んで探した。何度も何度もハルカを呼んだ、叫んだ。返ってくる返事はなくて、森全体の色彩が分かるようになってくる。目が暗闇に慣れてきたんじゃない、きっと朝がやってきたんだ。
朝日登る森、進化の家に行けばハルカも博士も誰も居ない。俺は施設だったガラクタに向かってハルカを呼んだ。森からの鳥のさえずりと、鎮火しきれていない炎がパチッと返事しただけだった。

嗚呼。俺は逃走に巻き込んで、9歳の少女を護れなかったのだ。
絶望を味わい、崩壊した施設を目の前にして、俺は力が抜けて膝から崩れ落ちた。


「ちっくしょおぉぉぉ!!」
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