第9章 7.
「おい、起きろ」
背中をど突かれて夢の世界から現実に呼び戻される。最悪な夢だった。まさにヒーロー検定に行って、落ちたという縁起の悪い夢だった。夢で終わって欲しい。
体を起こすまで定期的にど突く様なので、むくりと上半身を起こす。何故か隣に密着レベルで布団を敷いて着替えの済んだゾンビマンが居た。
失礼な事に刀の鞘で私を起こしていたみたいだ。色々と文句でも言おうと思ったが、ゾンビマンの顔面に拳のような跡が残っていて、回復のために蒸気が出ていたので文句を言うのを止めた。
『おはよう、血色悪い割に朝から元気だな』
「おかげさまでな」
布団から起き上がった私。ゾンビマンは刀を壁に立て掛けると、昨日私に浴衣が似合ってると言った時以上に楽しそうな様子で私を指差した。
「よし、起きたようだな。顔洗ってくるついで服着替えてこい。それ俺に見せ付けたいならそのままでも良いんだがな」
ニヤリ。指差す先には寝返りで露出した胸谷間の部分。かなり開いていて、幸か不幸か、胸の先端部分は隠れてはいた。
「へへ、朝っぱらからサービス満点じゃねーか、もうちょい脱いでみてくれるか?」
──というゾンビマンに無言で鉄拳を喰らわせて浴衣を正した。ちなみに壁に激突したらしく、ゴッという鈍い音も聞こえたがどうせ不死身なので気にしない。
ざまあみろってんだ。
「おいおい、今の本気だろ。寝ぼけて飛ばしてきたパンチより効いたぜ。歯折れたぞ」
『どうせすぐ生えるんだろ。着替え覗いたらてめぇのケツの穴増やしてやる』
「お、おう…(おっかない…)」
窓辺の私服と、ハンガーに掛かった上着を持って洗面所に私は籠もった。
浴衣を脱ぎ、私服に着替える。寝癖はさほど酷くはなく、手櫛で整えるくらい。トイレも洗面所もあるし、手足のベルトを取り付けてから身支度を整えた。
ドアをガチャリとあけ、布団のあった場所は既に畳とテーブル、座布団が設置されていた。
胡座をかいてテレビを見ていたゾンビマンは私に気が付くと、灰皿に寝かせていた煙草の火をグリグリと消した。煙草の煙が少し鼻にキツい。