第8章 6.
体力テストの項目とやり方を教え、筆記テストはどういった問題が出るか、過去5回までのデータを見せる。S級の"コネ"に近いものだ。
実は着替えを買った際に参考になりそうな本と雑誌、童帝にデータを送ってくれと頼んだやつが今回の勉強道具だ。お陰様で童帝には甘いものを寄越せと催促されてしまったが仕方がない。フルーツパフェでもミルクセーキでもなんでも奢ってやろう、大人に奢るよりも安いものだ。
夕食の時間になり、宴会場ではなく部屋食にしてもらって部屋で食べ始める。鍋や小鉢、刺し身などが机を埋めるなか、ハルカはぽかんとしていた。
食が進まない訳がないよな?嫌いなものでもあったのか?
「なんだ、食わねぇのか?」
『量が多すぎでは…?』
「あ?そうか?」
机を挟んで座る俺とハルカの前にはそれぞれの食事が並んでいる。だから2つずつ並んでいた。
そろそろと、警戒する猫のように箸を塩焼きにのばし、少しほぐして口に運んだ。もこもこと口を動かし、また箸をそっとのばす。その動作が可笑しくて俺は自分も腹が減っているのにも関わらず、ハルカを眺めていた。
しかし、箸の持ち方が不器用だ。姿は成長してもそういう所は成長してないんだろう。
「箸の持ち方雑だな」
『チッ、悪かったな。箸を使うのなんて久しぶりなんだ。だから買う時はあまり使わない食べ物とか選んでたんだ』
「そんじゃあ、箸の持ち方をレクチャーしてやる。ちゃんと箸を使って食わないと…」
俺の箸を持つ手と自身の手を見ながら、ぎこちなくも修正しようとするハルカ。
『ちゃんと箸を使わないとなんだ?』
「俺がお前に箸で食わす」
『……』
カラン、とハルカの持つ箸が一本座敷に落ちる。手元しか見ていなかったハルカは俺の顔を見て、落ちた箸を拾ってさっきよりも苦戦していた。
煮豆が掴めない。つるつると箸から逃げる豆。ハルカの箸先は若干震えていた。
『グッ…!なんで豆を調理した?そのままの方が掴めたはず、』
白米を食べていた俺は、自分の小鉢の煮豆を掴み、見せつけるように差し出す。
ハルカの眉間にシワが寄った。
「ほれ、食わせてやっても良いんだぞ、ん?」
『却下だ』