第7章 5.
───怒り、憎しみ、哀しみ。
あらゆる負の感情に動かされるままに怪人のように破壊した。大きな液晶画面も、パソコンも薬剤の棚もホルマリン漬けの臓器も何もかも。
途中俺に気付いた博士のクローンも何人か殺した。オリジナルを始末したいが、目的は脱走であってハルカの部屋へと走る。
以前はハルカと書かれていたものが、今では77号というプレートのかかった部屋。
ドアを乱暴に開けると、ベッドには少し崩れた山が一つ。
「ハルカ!逃げるぞ!脱走するから支度しろって言っただろ!?」
『……ん!』
力強く唸ったのは、寝てるから放っておけといった感じなんだろう。関係ないやつだったら置いていったが、俺は布団を引きはがして温かいハルカの手を握った。どうしても助けたかった。逃してやりたかった。
助けたい気持ちの理由は定かではないが、ハルカと離ればなれになってからその気持ちに気付くようになったけど。
「ここを抜け出すぞ!色々壊しちったからもう、後へは戻れねーからな!」
皮肉にも初めて俺がこんなにも話しているのに、ハルカは普段の俺くらいに静かだった。温かい笑みはもう見る事は叶わなくなってしまったが、初めて握った手は温かくそして柔らかく。
離さないようにキツく握れば『痛い』と言うので、少しだけ力を弱くして、研究所を抜けた。
煙草の灰を灰皿に再び落とす。
灰皿の底にうっすらとこちらを覗き込む自分が映った。