第100章 98.(過去のゾンさんの、元カノとの事情/裏)
「……あなたとは一緒に居られないわ」
「ああ?急にどうした?」
事後、穴の空いた俺のコートを弄くりながら、裸のハルカは悲しそうに言う。
「傷つくゾンビマンを見ていられないの。死んでもおかしくない怪我をしても、私…」
「死なないから平気だろうよ」
煙草を吸って、一度灰皿に置く。
ハルカは俺を見ずに続けた。
「それだけじゃないわ。私に名前を呼ばれる度に、私の名前を呼ぶ度にあなた、悲しそうな顔するじゃない」
「…は?」
「忘れられないのよ、あなたは。連絡も取れないっていう私と同じ名前のハルカを…。まだ、好きなんでしょ、ハルカの事。あなたはどっちのハルカが本当に好きなの?」
どのハルカだよ、とは聞かずとも分かる。これは選択を迫られていた。
"目の前のハルカが好きか?それとも安否の分からないハルカが好きか?"
恋愛感情というかは分からないが、確かに惹かれるものがあるのは目の前のハルカだ。
恋愛感情すら湧かない、守るべきものだと想い続けているのは脳裏に浮かぶ9歳の少女だ。
どれだけバーで出会った女をしこたま抱いても結局は忘れられない。
忘れようと思っても、あの幼い笑顔を忘れられないこの思考をどうすれば良いのか。とりあえず言えることは、目の前の女に現実逃避をする俺は最低であるという事だ。
「…分かった。別れようぜ」
「さようなら。あなたとの時間、とても楽しかった」
「俺もだよ」
それ以降は続く会話もなく、下着を纏い、服を来て去っていく。ドアの開閉、ヒールの音が遠ざかっていく。
残された俺は、灰ばっかで残り少なくなった、短い煙草を吸う。
室内に吹かれた煙にハルカとの思い出を思い浮かべながら。