第100章 98.(過去のゾンさんの、元カノとの事情/裏)
「あー…これの、ロック」
大きな球の氷が入ったグラスに、ウイスキーが満たされている。
喉に焼けるようなアルコールに内側に溜め込んだ思考を溶かしていく。何度かそれを繰り返していると、一つ席を空けた場所に別の客が座る。大して他人に興味なんて無かった。
「ハルカ様、こちらのボトルでよろしいでしょうか?」
「ハルカ……?」
カウンター内の、山ほどある酒瓶から、大人しそうな男の店員が言う。ボトルキープだろう、俺の近くに座った女は何本かキープしているようだった。
「そう、それで」
「かしこまりました」
店員が指されたボトルを持ち、グラスに注ぐ準備をしている。
ふと、女を見ると俺と目があった。
「何かご用かしら?」
「いや……」
そっと、自分のグラスに視線を落とす。
確かに店員はハルカと言った。けれども俺の知ってるハルカとは系統が違う。成長していてもこうならないと思える。
たわわな胸元、色っぽいふっくらとした唇に栗色のロングヘアー。別人だ。成長してもこうはならんだろう。
「あなた、ハルカって名前に反応したみたいだけど?」
視線を離した俺に興味は失せたかと思ったが、このハルカは俺に興味が湧いたらしい。
渋々視線をやると、頬杖をついてこちらを見ている。丁度酒の継がれたグラスが彼女の前に出された所だった。
「俺の知り合いに同じ名前の奴が居てな、…すまない、人違いだった」
「へぇ、"知り合い"って言う割に、結構な反応だったよ?結構大事な人?そのハルカって子」
グラスを少しこちらに押し、席を詰めて座る。女物の香水がふわっと匂う。
「……ああ、今は連絡のしようもねぇが…とても良いやつだった」
関係のないこいつには言えない言葉をウイスキーで流し込む。この罪悪感は酷く喉に焼け付く。
隣のハルカは静かに聞いて、自分の酒を飲んでいる。
「忘れられないんだ?」
何の返事もせずとも、ふーん、と理解をされる。
隣の女は残る酒をぐいっと飲み干し、勘定を済ませる。
「じゃあ、私が忘れさせてあげようか?」
「…は?」