第98章 96.(風雷暴の欲求不満の話 激裏)
バクバクバク。鼓動がエンジンのように加速していく。
顔が熱い。熱すぎる。携帯越しのゾンビマンは一言が引っかかっているのか、沈黙した。
『その、お昼まだならどうかなって誘いだったんだけど』
「まあ………いいぜ?場所指定してもいいか?」
なんだその沈黙は。
『…うん、構わないけどどこ?』
「場所は、お前んちからジーナス博士の所まで行く途中にあった、アンジェロっていうレストランだ。構わないか?」
『うん、初めて行く所だから注意深く見ながら行く』
「そうか。じゃあ先入ってる。緑の看板が目印だからな…ああ、ちょっと待て」
カラン、とドアベルの音。いらっしゃいませ、の女性の声と、ゾンビマンが2人だ、と伝えて案内します、の声。
つまりはもう現地入りしてることでは?とスピーカー部分に耳を押し当てて聞く。
「…まあ、察してるかもしれないが俺はすでに待ってる。早く来いよ」
『それならそうと、近くにいるって言ってよ!』
私は風を出してその方向へと走り出した。
携帯の向こうは笑っている。ムッとしたので携帯を切って、全力で向かっていった。
──イタリアンレストラン アンジェロ。
緑の看板だ、と特徴と店名を確認して入店。煮込んだトマトの香りと、チーズを加熱した香り。そういえば、サイタマの所に来てからこういったものは食べていない。ヒーローになる前だったら安いパンにピザ具材を載せたものなら食べたことがあったけれど。
「いらっしゃいませー、あっ、お連れ様ですね、こちらになります」
スタッフは私を見るや、案内をしてくれた。
私の話を伝えてないと思うんだけれど、と考えながら案内された席にはゾンビマン。片手を上げて今日も不健康そうな顔色で、そのコーヒーの中にありえない数の砂糖が打ち込まれているのだろう。
『…もう』
目の前の席に座る。ゾンビマンから差し出されたメニュー表をむしり取るように受け取った。
「そんなすねんなよ、アンジェロ」
『……そこはアンジェラじゃないの?』
「すまん、俺はお前ほど学がねぇんだわ」