第7章 5.
思えば、今日までの間博士に再び捕まったのではないか?とか、死んでしまったのではないか?と脱走を企てた自分を責める事もあった。巻き込んでしまった、最後まで一緒に逃げられなかった事を後悔した。
あの時のハルカは10歳にも満たない、何も知らない純粋な少女。俺も親っていうのが良く分かりゃしないが、あいつは孤児院から引き取られたらしい。
死んでは生き返る俺の暇な時間、大体は向こうから話し掛けてきていた。最初は意外だな、とか新鮮だなとかそんな気持ちだった。話掛けられるのが日課で、喉が平気な時は俺も返事をした。話せない時は身振り手振りか、頷いて話を聞いてやった。
満面の笑みで楽しそうに初めて食べたものの感想や、今度トランプをしようだとか言うハルカ。その笑みも日を追う毎に薄れていって、あいつは悲しそうな表情へと変わっていった。
ジーナス博士はやはり、ハルカを自分の子ではなく研究の対象にしたんだと思ったのは、父と呼ぶなという事と、ハルカを77号と呼称していた事。そして実験後の治療の跡が物語っていた。
ある日、俺が実験室で切り裂かれて傷口に液体を撒かれ、惨い実験から回復している時だった。
オリジナルとクローンの会話が聞こえてくる。「77号の能力、問題は無い様です」「そろそろクローン、外見の"リニューアル"でもするか」
回復中の中、俺は実験室を瞼の無い眼球でぐるりと見回した。そこには俺を殺す為に揃えられた様々な武器のオンパレード。グズグズしてられない、そう思えた。
過去を思い出しながら煙草を吸って中庭を眺めるのを止め、俺はテレビを付ける。
灰皿に灰を落とし、再び煙草をくわえた。テレビには無免ライダーというC級ヒーローがパトロールする映像が流れている。
テレビに興味も何もないが、静寂よりはマシだ。テレビの画面との間でゆらゆらと上がっていく煙を眺めながら、俺は再び当時を思い出していた。