第96章 93.(ソニックと風神/音速で射止められた色)
あの瞳はまるで宝石のように美しかった。
あいつに出会ったのは依頼人から頼まれた仕事を早急に終わらせ、帰宅中だった時の事。
やけに風がびゅうびゅうと煩い中、建物から建物を飛び回っている俺はとある気配を感じた。こいつは強そうだ。
フード付きのローブ。なんの柄も無い、白。こんなにも強風だというのに、フードはめくれず、ローブはそよ風に吹かれる程度にはためく。
「おい」
声をかけると、あんなに吹いていた風がぴたりと止んだ。
やはり、この風はこいつが吹かせていたのか。
──突如、俺は何が起こったのか理解出来なかった。
耳に入り込む風や周りの風が凄い音だ。徐々に俺は飛ばされたんだと理解した。
まだ一声しかかけてねぇだろ。フードの中身は見えないが、片手を俺に向けてそのまま立っているそいつ。
なんとか屋根の上で体勢を整えて、いきなり何しやがるとでも言おうとしたが、少し口を開けただけでバラエティー番組のように口の中に風がしこたま入るだけで声も届きそうもなく、口を閉じて黙る事にした。
しかし、このまま去るのもどうなんだ?相手は俺をふっ飛ばしはしたが俺にはダメージというものを与えられていない(もっとも一般人なら着地に失敗して叩きつけられただろうが…)
殺気は感じない。この風は攻撃というよりも、声をかけた俺を近づけまいという…そんな感じに受け取れた。
強いんだな、とは分かる。いずれあの男と戦って勝利を収める為の経験になってもらう、そんな考えが消えていく。
興味。この白フードに興味が湧いた。
風を受ける面積が少なくなるよう、身を屈め、少しずつ距離を縮めていく。
体感する風、聞こえる音は更に激しくなっていったが、かなり近くまで行くと風はそよ風程度になった。
あまりの変わり様に、突風に備えていた体勢を崩しかけた。