第95章 92.(ジェノス/ファントムペイン)
どういう意味だろうか?
生身の肉体が痛む…ファントムペインといったか。鋭いと分からないものなのか?
少し考え込む俺を見て、先生は言葉をもごもごと呟いて大きなため息を吐いた。
「ジェノス…それ、恋じゃね?」
──恋?
「…はぁ…?」
自分でも驚くような、情けない返事。
コレが恋か。確かに思い返してみれば…ハルカが好き、な気がする。この想いになんでもっと前に気付かなかったのだろうか。
少し前からハルカとゾンビマンの仲が変わりつつあった。
──ファントムペインの原因に気付けば、時は既に遅く。
部屋に帰ろうとした際に生体反応を感知。部屋の前にはハルカとゾンビマン。
街中でも見る事が出来ないような、とても深く口付ける姿を目にしてしまった。
有るはずもない心臓がギュッと潰されるような痛み。
死なない男だとは言え、ゾンビマンを本気で殴ってしまった。そんな自分の情けなさと、嫉妬する自分に怒りを覚える。
気持ちに気付いた時にはもう、彼女の隣に居る事は出来ない。
少しずつ、欠落していた感情を色鮮やかに取り戻していく。白い白い彼女は鮮やかな色彩をした、1人の恋をする女性だった。
相手は俺ではなく、ゾンビマン。昔から一緒に居て、どんな事を語り合ったのだろうか。
別れ際とは言え、あんなに激しいキスをしていたんだ。手を触れ合ったのだろうか?あの男と体を重ねたのだろうか?その視線はあの男を追うのだろう。あの男は俺も見た事の無い彼女の肌に触れるのだろう。
俺には知る事も触れる事も出来ない。
あの日から触れる感覚の分からない体になってしまった俺じゃあ、どうしようも無いんだ。
この時こそ、涙が出る機能が俺に付いていたのならば、間違いなく泣いていたんだろう。
今の俺に出来る事。それは色鮮やかに、幸せそうなハルカを少し離れた位置で見守るだけだ。
ファントムペインを感じる胸の前に、サイボーグの手を当てて微笑むハルカを優しく撫でた。