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風雷暴見聞録

第95章 92.(ジェノス/ファントムペイン)


よくよく見れば僅かには感情はある、が…笑わない。ゾンビマンが言っていた10年前の笑みとやらが想像つかない程に冷え切っていた。
食事の際は少し固まっていたので、苦手だったのか?と思ったが杞憂のようで…腹が減っていたのだろうか、不器用ながらも箸を使いきちんと食べていた。


翌朝、俺の体に何かが覆い被さる事で目が覚める。
サイボーグとはいえ、脳は人間のパーツそのものだ。睡眠は必要だ。
十分に休息が出来たので起きた。
被さっていたのはハルカが使っていた布団だった。機械の体には必要はないが、被せたのか。
生体反応。玄関から外。物凄いスピードでこの建物の屋上に上がっていく。

ジャンプ力が凄いのか?いや、あの細身では無理だろう。恐らくはタツマキのような超能力系を持っているのだろう。
A級に居る理由がなんとなく掴めてきた。

「随分と早いんだな」

窓から見る外の世界に、飛び降りたハルカが映ったから声を掛けた。
着地時に砂煙がくるくると円を書くように舞っていた。やはり、そういった力を持っているのだと確信した。

『その辺であまり遅くまで寝ていると襲われるんでね、』

感情を出さない彼女の顔に、不思議と影を感じたのはこの時。何か声を掛けるべきだ。口から出た言葉は「上がって来い」と言うだけ。
料理は幾らか出来るだろう、と思っていたがそう言った概念が無い生活を送っていたらしい。思わず滑った口で変態呼ばわりされた。


共に過ごしていく中で、俺の中で印象はどんどん変わっていく。
ゾンビマンが来て、進化の家やジーナス博士の話をすると、ハルカは彼が帰った後に悲しそうな顔もせずに泣いた。止まる事なくボロボロと、ダムが決壊した如く泣いた。
今の俺には出来ない事だ。戦闘能力に関係のない機能であるから省いている。クセーノ博士に涙腺という機能を付けて貰えば人工的に作った涙かオイルくらいは流せるだろうか?
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