第94章 90.本編最終回
私は今、幸せだ。
ほんのり微笑みながら賑やかな繁華街を歩く。人々は私を知っている。ただ通り過ぎるにも人集りが出来た。
道行く人々は楽しそうに笑顔を振りまき、友人、恋人、家族に寄り添う。笑顔ではない人はピシッとスーツを着こなし、時計を見ながら或いは社交辞令を携帯に伝える。
充実した人生論、学生達の幸せ将来計画。それらを手に入れた私は人々と同じく幸せの中で生きている。
私にも繋がり…知り合いが居る、仲間が居る、そして帰る家がある。皆も私にも同じように幸せがある。昔の私にはそれらを何一つ持ってなくて、いつ吹くか分からない気まぐれな風のように目的もなくただ思いついたまま足を運んでいた。今では気まぐれな風のように街に行き、怪人を倒すヒーローだ。
──繁華街も路地裏に入れば嘘のようにはしゃぐ声は抑えられ、表に出ないような店や浮浪者、酔いつぶれた人に塵溜まり。ここはもう私の居場所ではなくなっていた。
ただ通り過ぎるという目的で進めば、奥から男の叫び声と何者かが走って近付いてくる音。
嬉しいのか、私の胸の鼓動が高鳴る。
今朝、用事が出来たという男にも鼓動が高鳴っていたけれど、それとこれとは違う高鳴り。
ちなみにゾンビマンは協会に呼び出しを喰らったらしい。私ももしかしたら呼び出されるかもな、とは言われたけれどいつものように怪人を駆除して廻っている。
脇差を引き抜き、雷神の力を満たした刀身は青白い光を放つ。
薄暗い路地裏で唯一の明るい光源だ。パリパリ、パチッと音を立てるが、私には痛みなんてない。
逃げてきた男を背後に匿い、やがてやってくる怪人を見て私は強気に笑う。
『すぐに駆除してあげる』
砂埃や、そこら辺に散らばるゴミを巻き上げ、風神の力で加速する。
怪人は加速した私を見て、すぐに戦闘態勢に入ったけれども、もう遅い。
腹に突き刺した場所から一気に流し込む雷神の力。バリバリと音を鳴らし、肉の焦げる匂いと痙攣する怪人。一気に脇差を引き抜き、喉元をカッ切る。
へなへなと座り込む男性に手を差し出すと、手汗で濡れた手を置かれる。
その手をしっかり握り、立ち上がらせるといつか見た、あの顔だった。