第7章 5.
荷物らしい荷物はそんなにない。相棒は常に身に付けていたいし…あるとしたら貰ったバナナか、とテーブルに置いた。私の荷物整理はこの時点で終わってしまった。
次はなんだ、窓辺から景色を見るのか。すぐ立ち上がりゾンビマンの隣に立った。
中庭と呼ばれる空間が見える。
綺麗に整えられ、計算されて植えられたのであろう植木、岩、そして小さな小川。先ほどまで居た森にも岩も木も川もあったハズなのに、この空間はまるで…そう。芸術的というべきか。
普通の人が旅館に来て窓辺から景色を見る…の意味を今、分かったような気がした。
窓辺から部屋の中を漁る音。ゾンビマンは何かバサバサと布を雑にテーブルに置いている様だ。
振り返ると先ほどまで来ていたコートをしまい、なんか脱ぎだしていた。服を着てたのにやはり脱ぐとは…ゾンビマンからゼンラマンに改名した方が良いのでは?
『何故脱ぎだした。いくら私でもそれはおかしいと分かるんだが?死にたりないのか?』
「あ?そりゃお前と俺の中だし今更別に…
おいおい、そいつを構えるなよ!?」
私がそっと相棒に手を添えると、ゾンビマンは焦りだした。例え撃ったとしても死なないだろうが、私も本気で撃ったりはしない(宿代はゾンビマンが出してくれるらしいし)
残りがボクサーパンツという段階でようやく脱ぐのを止めた。危険だ、こんなのヒーローじゃないだろ!
私が冷めた視線を送っていたからか。テーブルに置いたローブのような服を素肌に着る。
「ほら、浴衣に着替えて風呂にいこうかとな。さっきまで森に居たろ?お前は風呂上がりにコレに着替えて、今着てる服を洗濯しておくと良い」
こう着るんだ、とか部屋を出てどの辺りにランドリーがあるとか、温泉はここと同じ一階にあると教わり、私も浴衣を持って行く事にした。
川の水は正直冷たすぎるし、温かい湯に浸かれるのは有り難い。洗濯コーナーというプレートが付いた部屋を確認し、温泉の場所に案内を見ながら行く。旅館の履物…スリッパが私達が一歩進むごとにペタペタと音を鳴らした。