第7章 5.
ゾンビマンは旅館に入って直ぐ、部屋を取ってくるからそこに座ってろと椅子を差す。
私にとって旅館は初めてだ。民家に泊めて貰った時のテレビで内装を見た事はあったけれど、泊まった事は無い。木を燻したような、なんだか落ち着きのある香りがする。周囲をきょろきょろしながら私は椅子に座った。
数分もするとゾンビマンに名前を呼ばれ、手招きをされたので、立ち上がる。
「おい、部屋案内してもらうからお前も付いてこい」
従業員とゾンビマンは並んでいて私が来るのを見ると、従業員がコチラになります、そう案内をする。
廊下を歩き、目的の部屋へと案内されて入る。従業員は部屋の中と、非常口の案内をしてごゆっくり、と部屋から消えていった。
「……つーわけで部屋2つじゃなく1つしかとってねぇから」
『身の危険を感じたら今日みたいに遠慮無く殺しに掛かる。良いな?』
「容赦ねぇな」と呟く言葉と、部屋の窓辺に立ってライターを開閉させる音。てっきり吸い始めるのかとも思ったのに、ゾンビマンは火も着いていない煙草をくわえたままライターをカチャカチャと鳴らし、部屋に入ってすぐの場所に居る私を振り返った。
「……そうか、お前はこういう所は初めてだったな。普通お前くらいの奴ってのは窓辺から景色見たり、荷物をしまってくつろいだり、きゃあきゃあ言いながら風呂場にすっ飛んでいくもんだぜ」
『へぇ…』
普通はそうなのか、なるほど。私はふかふかの座布団の上に遠慮がちに座った。