第92章 89.
そうだ、ここ旅館なんだからお風呂に行ってこよう。そうしよう。
『あー…私お風呂行って来ようっと。66号も行ってきたら?そうしなよ』
眉間に皺を寄せ、何言ってんだと言わんばかりに
「じゃあ、一発お前を抱いてからな」
その気しか無い。
風呂というものは後回しにされた。一発とか言うな、一発とか!
正直、体が綺麗な状態の方が良いけれど、片手で机を端に寄せる男にはそんなのは関係無いみたいだ。
『よ、夜寝る時に布団敷いた時だけにしない…?』
「それはそれ、これはこれ。別腹だろ。そもそも、コッチが元気な状態で風呂場なんか行ってみろ、注目の的だろーが」
浴衣の間から、突き出たボクサーパンツが主張している……。
そこは男性諸君が良く知る、抜くという行動すれば良い気がするんですけど。
はぁ、とため息を吐いてされるがままに着たばかりの浴衣は剥がされてしまった。
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夕食は相変わらず、豪華で美味しく。温泉は広く、気持ちよく。
その後寝床で泥仕合という長期戦…、うん…酷い目に遭ったので、腹いせに太腿の内側に静電気を執拗に放っておいた。ゾンビマンは「もうやらないから!もうやらないから!」と全裸のまま後退りしていったのを見て雷神の力に感謝した。
一つの布団敷いただけだから、後ほど戻って来るだろうな、あの変態野郎。
布団から出て一糸纏わぬ姿で、障子を少し開けると月明かりが照らす。
髪を片方の肩に掛け、月を見上げる。今日は満月…なのかな?まんまるの月は夜だというのにこんなにも宵闇を優しい光で照らしている。
さり、さり…と静かに畳の上を歩く足音。
腰に両手を回し、私の頭に顎を乗せた男の体温は温かく。
「そろそろ寝ようぜ。お前が欲求不満だというならもっとするが……」
私の腰に何かが当たる。これだから変態は。この変態の性欲は果てる事がないのだろうか?煙草の吸いすぎで元気が無くなってしまえば良いのに。
振り向く事なく、頭上にある顔の両頬に私は両手を添えた。