第90章 87.
「そうか、76号は…埋め込まれた感情抑制のチップさえも制御してまで、こんな意思を…」
私がもしかしたらリメイクで同じようにまともな思考にならないようにされていたのかもしれない。
私が雷を落とした後、明らかにまともな口調だった。けれども、その環状抑制のチップとやらが埋め込まれてない私でも、ゾンビマンに出会わなければ負の感情が爆発して同じ道を行ったかもしれない。
『ジーナス博士も、同じ過ちを繰り返さずに生きてください』
同じように実験をして、この様な悲劇をもう生み出さないように。そして、諦めた人生ではなく、博士自身もきちんと生きて欲しい。
机の下でぎゅっと握る拳。その拳をそっと上から包む掌。
「おう、大人みてぇに一丁前に言うようになったな」
『大人みたいにって…お酒・煙草は駄目だけれど一応は大人の仲間なんだけどな?』
風神の紙を手に取り、文章を読んでいる博士。
「はは。まあ、ハルカは19歳だからまだ未成年だけれどね」
「ほー…?」
ゾンビマンはこの前のようなピリピリとした空気ではなく、いつもの調子だ。だからなのか、私も緊張しちゃいない。
「でもまだまだお子様だろ。でもまぁ、ベッドでのお前はちゃーんとおt、」
何か危ない言葉を言い出しそうな気配を感じたので、拳の上に乗せられた手にもう片手から電撃をお見舞いする。
バリリィという音と共に引っ込んだ手と、離れるように倒れるゾンビマン。ざまあ。
「痛ぇな!なんですぐに電気浴びせんだよ、お前は!?起こすのにも冗談行った時もよォ!短気か?」
『どっちが悪いかなんて自分の胸に手を当てて考えてみなさいよ、大抵あんたが悪いから』
「胸に手、ねぇ?」とニヤニヤと笑うゾンビマンはこちらに手を向けて近付く。自分のって言ったのに人の胸に手をやろうとしているな、こいつは。
下心が丸分かりだ。指先を何度も曲げ、揉むような仕草。その両手にこちらからも両人差し指を向けて応戦した。パリパリバリッという音とたらこでも焼いたような匂いがする。
ゾンビマンは眉間に皺を寄せて私からちょっと離れた位置に座り、静かにお茶を飲み始めた。体のあちこちから蒸気が出ている。
釣られて私も湯飲みを持とうとすると、湯飲みが熱くて飲めない。そんな私を見てニヤニヤと笑う緋色の目の脇腹に静電気をお見舞いすると完全に黙ったのでこれで良しとしておこうか。