第89章 86.
部屋に帰り考える。
今日はサイタマの部屋にキングが遊びに来ている。サイタマが何か言いたそうにチラチラと見て、キングは「そっとしておこうよ」と宥めた。
考えた結果、一部の遺骨を肌身離さずお守りとしておこうと決めた。そして残りはジーナス博士の元へ。
あんななりでも一応は養父。私を生み出した人だ。
そうと決まれば、同行者に連絡をしよう。ポチポチと携帯のアドレス帳を開いて、ゾンビマンの名前を表示する画面。
5コールほど鳴ってから、相手が電話に出たようだ。もしもし?と相手と会話を始めた。
「協会に呼ばれたって聞いたぞ。どういう用件だったんだ?」
どこから聞いたのやら。
風神が昨日亡くなったという事と、遺体を貰えた事を伝える。特別待遇だけれどね、と足して。
電話をしながら小さな棺桶を開ければ、生きていたという証を感じさせない冷たさを持っていた。
『…で、博士の所行って、その後一部の骨貰ってで業者にペンダントにでもして貰おうかなって』
「ははぁ、んで俺を誘ってるってワケか?」
お前ジーナスの奴嫌いみたいだもんな、と笑い声混じりに携帯の向こうの男はいう。
ま、否定はしない。今でも嫌っては居る、けれど博士あっての私の命。感謝もある。クローンであっても体温も心も、感情だってある。そして…66号に出逢えたし、今では1日が短く感じる程毎日を楽しんでいる。
『博士ん所行ったらデートしてあげるから』
「ほー、その誘い乗るわ。デートなんだから少しはめかして来いよ」
ふふん、チョロい!
待ち合わせ場所をたこ焼きの家の前と伝えて時間を伝える。わざわざZ市の危険区域まで迎えに来させるのも外出時の運動嫌いな彼にはキツいだろうし。ならば現地が良い。
めかせと言われてもそんな可愛い服なんてない。部屋着くらいだ。
「あ、ついでに外泊許可も取っとけ」
『変態め。どういう考えしてるか手にとるように分かるんだけど。…ま、気が向いたら許可を取ってあげても良いけど』
くすりと笑ってそう言い、部屋が薄暗くなってきたので電気のスイッチを付けに行く。
明るくなった部屋と対照的な外。カーテンを素早く閉め、ベッドに座った。
「じゃあ、明日な」
『ん、遅刻しないで来て頂戴ね』
それじゃあ、と通話を切る。
携帯をしまい、もうひとりの私を覗き込む。最期の表情は苦しみから解き放たれた安らかな寝顔だった。