第84章 82.
「立てるか?」
優しい声色が近くから聞こえた。
その問いに私は首を振る。竜巻はまだ消せそうにもない。
プルプルとした手を、上から差し出された手に重ねると倒れた体を起き上がらせてくれた。
コンクリートに座ったまま、私は力の出ない手を見る。
『あと、あと…少し休めば、力を振り絞って竜巻消せるとは思うけれど…』
「無理すんな、バカタレ!」
痛い!頬を抓られ解放されたかと思ったら、ぎゅっと抱きしめられる。
締め付けられる、と言って良いほどに強く。
「何度もハラハラさせやがって……俺を殺す気か、お前は!」
死なないじゃん、と返そうとした私は気が付いた。
いつもは肩を震わせるのは私なのに、珍しく抱きしめる男が振るわせている。
『あんた…泣いてるの?』
「うるせぇな、もっと力込めんぞ」
既に痛いから止めて。
そんなやりとりをしている間にも風神が作った竜巻は成長していく。台風レベルじゃないのか?複数の竜巻を飲み込んでいるせいか、破壊威力も大きい。
被害が広がらないうちに止めなくては……。
そこに現れるのはヒーローだ。
パーマの掛かったような緑の髪。彼女が得意としている超能力で浮きながら、手を竜巻へ向ける。すると荒らし回っていた竜巻は綺麗に消えてしまった。
「タツマキが竜巻を消すとはな…」
「ちょっとそこ!聞こえてるわよ!」
そう、風神が出した竜巻を消したのは、戦慄のタツマキだった。