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風雷暴見聞録

第84章 82.


辛うじて目とか口は開けられる。
問題が手足。脱力したように動かない。これは…今度こそ死ぬ。

「ハルカ…っ!?」

下から叫ぶ声。

『今度こそ、無理っぽいや…はは、』

驚き焦りながら私の名を呼ぶゾンビマン。
あの高さから落ちたのだから、例え抱きとめられたとしても…勢い良くその場に2体の死骸が散らばる。
ぎゅっと目を瞑り、本当に死を覚悟した。

走馬燈という言葉と意味を聞いた事がある。
生まれてからではなかったけれど、66号であるゾンビマンと再会してからの日々を思い出した。
あれ程つまんない人生って思ってたのに、色鮮やかな日々がとても楽しかった。

──本当に。
楽しかった、な…。

時が止まったんだろうか?いつまでも地面にぶち当たる感覚も痛みも、誰かに触れられる感じも無い。
そっと瞼を開く。目の前には地面。ゆっくりと体が屋上の床にぼてりと落ちる。
横になった状態の私は訳が分からなくて、ゾンビマンを見上げた。

触れてもないゾンビマンは見開いた瞳で私を見つめている。

『…フブキ?タツマキ?』

見上げたゾンビマンは首をゆっくり振る。
私には力が残っちゃいなかった。じゃあ、誰が?他に誰かヒーローが…?

聞き覚えのある掠れた声が微かに聞こえて、私は首だけをその方向へと向けた。

「ナナジュ、…ナゴウ、オマエはヷダジ…からホント、良いトコロばかり…」
『ふ、うじん…?』

生きていたらしいけれど、声が小さい。
僅かに1m程離れたこの位置、生き物が焦げる匂いと屋上の床にリヒテンベルグ図形が焼き付いている。
その模様の中心は風神。確実に風神に当たって、その体を走った雷は下へと落ちていく。
狙った訳でも無かった脇差は雷の影響もあってか、風神の肩に深く刺さっていた。

「敗者は去る…。オ前は人として、生きれば…良い」

ぽつり。額に落ちた雨粒はすぐに顔を伝って落ちていく。
冷たい雨がどんどん上空から降ってくる。ザァザァと辺り全体を騒がしくして、全身を濡らしていく。
風神は喋らない。僅かな息が残っている。
戦いは終わった、けれど……

私の頬を伝う雨は暖かい。
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