第78章 76.
『…この際だからスッパリと禁煙しちゃえば良いんじゃない?煙草、年々高くなってるみたいだし?』
コートを着た二の腕辺りに箱を押し付けると、煙草は回収された。
煙草は大切にポケットへと仕舞われたようだ。
「いいだろ、どうせ俺は死なないし、金なんてそんなに使い道ねぇしな。武器と服と煙草くらいだろ」
唯一の娯楽よ娯楽、と言ってライターを開けるいつもの金属音が聞こえた。
あれ、控えてるし私の前では吸わないんじゃなかったっけ?
振り返るとしまった!という顔で火の付いてない煙草を箱へと仕舞う。苦虫を噛んだような顔。
可笑しくて声が出てしまった。
『……っい、いつものクセ出てるけど?』
「俺だってそういう時もあるんだ、そういう時も!」
風にかき消されそうな小さな舌打ちが更に可笑しい。
『まぁ、無理はしないで。私、服に染み付いた煙草の香り結構好きだけど?
…66号の香りだって安心する』
そう付け足すと腹部に腕を回されて少し体を寄せられる。
風神を誘う為の作戦中ではあるけれど、この体温に、香りにドキドキとした。
寄せられたついで、そういえばこういう事もしたっけな…と、手を伸ばして黒い短髪の頭を撫でて上げた。彼の抵抗はなく、私は何度も頭を撫でた。
それはつかの間の幸せな時間だった。
その幸せな空気が壊されたのは次の瞬間、今日吹いた中で一番強い風が吹いた時。
それだけじゃない。何者かの気配も感じた。
密着していた体を離し、私は目の前の方を睨み付ける。
隣にいたゾンビマンは一度立ち上がり、ベンチに片足を乗せて武器の銃を構えた。