第78章 76.
風が時折強く吹く。
なんだか雨が降りそうな感じだ。傘でも持ってくれば良かったかなぁ…。空は雲ばかり。青空とは無縁で、何処までも鼠色のもこもこの雲が上空を覆っている。
F市のゼニールの持つビルの屋上、ゾンビマンと並んで座っていた。
今日こそは絶対、誰かの所に来る。そう思っている。昨日はキングと童帝が遭遇したのだし、今日も誰かの所に現れるだろう。
ちなみに、童帝情報でラジコンヘリをキングと飛ばして遊んでいた所、ヘリを破壊されたのだという。
キングも遊んでいたのか…
で、その破片が勢い良く体にぶつかって傷を負ったと。
戦闘はせず、姿を確認して風神の言葉を聞いた。ただそれだけだったのが幸いだ。警告に怪我を負わされたんじゃないんかい、と思いながら直に攻撃がされなかった事に安心した。
『…ねぇ、気を引く為、凧揚げでもしてる?』
といってもそんな物持ってすら居ないけど。
ゾンビマンに言えば短く、ちょっと馬鹿にするような視線を送ってきた。
「ビニール袋しか持ってねぇよ」
ただの提案ですよ、提案。
今日、気になることがひとつあった。ただ待ちぼうけしているのもつまらないのでその事を聞いてみようと、隣に座る男を見上げた。
『やっぱり風が強いから煙草吸わないもんなの?』
今日、迎えに来てからずっと煙草を吸っている所を見ない。
玄関出て、誰にも見られないうちに彼の胸板に飛び込んだけど、その時は服から煙草の匂いはした。
匂いはしたけれど、危険区域から出るまで、いや、ここに来るまで一本も吸っていない。
本当に禁煙し始めたのか、とちょっと見直した所でポケットから煙草の箱を出して見せた。
「今は"誰かさん"の為にも控えてんだよ。家じゃ一箱以上は吸ってんだけどな…最近俺の好きな銘柄がよ、デザインをちょっと変えたみてぇでさ、ほれ、パッケージ見てみろ」
肩に当たった煙草の箱を受け取る。中身は半分ほど入っているのを見て、パッケージをぐるぐると見た。
後ろ側である部分に何か書かれていた。
妊婦、乳児、未成年についての事もそうだけれど、文字フォントが変えられてやたらと目立つ文字、"貴方や大切な人が一本につき5分30秒の寿命が縮まります"
不死身とされるゾンビマン自身には影響なんてないんだろうけど、この場合・空気的に私について言ってるんだろうか。