第72章 70.
「それじゃあ、ヒーローのお2人さん。怪人退治頑張ってくださいね!」
タクシードライバーはそう言って去っていく。
乗る時のような鮮やかさが無くなってしまった空。変わりに宝石の様な星が見え始めている。
帰宅ラッシュもあって、遅くなってしまった。携帯の時計を見ると7時半。お腹空いた。鍋の具材残っているだろうか?
ゾンビマンと並んでZ市の危険区域へ向かう。近付けば近付く程に人気は少なく、危険区域に入れば街灯は乏しい。
残り少ない街灯を頼りに家のある方向へと少しだけペースを上げて進んでいた。
「この時間じゃあ本格的に暗いな」
懐中電灯なんてそんなものは無い。
ライターで火を付けるも足下を照らすのには光が少なすぎた。
『少し危ないけど、私のはどうかな?』
「…あ?」
両手の指先を合わせ、少しずつ放す。
先端部位から出す事の出来る電気。パリパリと音を立ててむしろ明るすぎる光を放つ。
けれども隣が近いせいなのか、人差し指からパリッという音を立ててゾンビマンの肘に当たったようだ。
却下な、と言って肘をさすっている。わざとじゃないんだよ、ホント。わざとじゃ。
手から放電するのをやめ、口元を押さえる。
失礼ながら、面白かった。ちょっとビクッとして押さえて却下な。とか。
バレないと思っていたのに、笑ってんじゃねーよと怒られてしまった。
『ねぇ、66号。明後日も今日みたいに風神が来るの待つんだよね?』
きちんと夜道を照らす街灯の側を通りかかる。
野良猫が3匹集まっていて、私達を目で追った。角度によっては目が反射して、不気味にも思える。
「ああ、そうだ。こういった連携モノは、出来るだけお前と組みたい」
『嬉しい事言ってくれるじゃないの。そんなにあんたは私が好きか?』
からかうように言えば、好きに決まってんだろと照れる様子も無く言った。
余裕たっぷりに良く言えるもんだよなぁ。暗くて見えないだろうけれど、私なんて嬉しくて恥ずかしくてきっと顔が赤みを帯びている。暗くて良かった。
たまにある街灯以外、建物では明かりらしい明かりは無かった。けれども少し先に見える明かりは部屋の明かりだ。
あともう少しでお別れの時間。