第70章 68.
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むにむにむにむに。
いつの間に始まっていたのか、頬への執拗な刺激で短い夢から現実に戻された。
ちなみに夢の中ではサイタマに、ギャーン!と唸るチェンソーを向けられながら追われた。サイタマは武器無しでも強いのにチェンソーなんて持たせちゃいけない。
「起・き・ろ」
むにむにむに。
夢を思い出してる間もずっと人の頬を痛くない程度に摘む奴。そいつの顔を見上げれば緋色の瞳と目が合った。
そう言えば車が動いている感じが無い。現地にもう着いてしまったのかな?むくりと体を起こすとコートが私からずれ落ちる。頬への攻撃も止んだ。
コートを拾って軽く汚れを落とすと、持ち主に返した。
「着いたぞ。ほれ、降りろ」
両側のドアから出る。どうやら駐車場に停まっていたようだ。
タクシードライバーは「5時にまたこちらに迎えに来ます」と言って運転席へと戻る。
「大富豪ゼニールのビル、ねぇ。こんなのが支店とは金持ちの思想は分かりたくないもんだな」
見上げれば、金色に輝くウンコのようなオブジェ。ゼニールのビル、とはどういう会社なんだろう?トイレ関係だろうか?知りたくもないけれど。
近場のコンビニに寄って昼食になる物を購入に行き、高層ビルの入り口に入る。
入ってすぐの受付嬢が「お待ちしておりました」と頭を下げ、エレベーターへと案内される。話はされているようだ。
S級として最初の任務、そして初めて組むのがゾンビマン。通り過ぎていく階数を見上げる。
高鳴る胸の鼓動に手を触れて、私達は最上階へと到達した。