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風雷暴見聞録

第70章 68.


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『それじゃあ、宜しく』

そう言って微笑したハルカは瞼を閉じる。
背中にまだ癒えない多くの痣、傷、そしてヒーロー協会本部までハルカはずっと走ってきたらしいし、疲れているだろう。そう思ったわけだが…ビンゴだったようだ。
瞼を閉じてしばらくすれば、静かに安定した呼吸をする彼女。恋愛感情。そういうモンを持ってしまった為か、昔よりももっと護りたいと思える存在になっていた。

今、こうしてる間にこいつの安らかな寝顔を独り占め出来るのは俺だけ。俺に触れる確かな体温。優越感に浸る。

確か…ハルカの部屋に積まれたダンボール。戦うスタイルか、見た目がウケたのか世間では有名になったハルカには様々な手紙が届くだろう。
応援の手紙、ファンだという手紙、そして勿論…告白もあるだろうな。俺でもそういう手紙を貰った事があったが…ヒーローと一般人だ。本気にはしなかったな。

こいつはどうなんだろうか?どんな顔をして読むんだろうか?
俺に見せるような、真っ赤で困った顔をして読んだのか?それとも嬉しそうに読むのか?そんなこいつを想像するだけで苛つく。ハルカ自身に苛つく訳でもなく、一つ一つの動作でさえも他のやつには見せたくもない。独占欲と嫉妬心。見えない相手に苛立つ。
顔も名前も知らない相手に、俺すらも触れた事も無い場所に触れ、まだ入ったことのない場所に辿り着いた男もいるかもしれない。そんな事を考え始めて世間に見えないように本気で監禁したくもなってくる。
ああ、俺は死ぬ事は出来ない不死身の男だってのに、弱点が出来てしまった。

この前の様に、後一歩で大怪我でもする様な場面に出くわしたらどうすれば良い?絶対に助けられる保証なんか何処にもないんだ。この前のはギリギリだった。
太腿に頭を載せて眠る横顔が愛おしい。手の甲で頬に触れれば、いつまでも触れていたいくらいに柔らかい。なんてこんなに柔らかく脆いんだ。強かに戦うヒーローと言っても、結構素直じゃねぇ。良く問題を抱え込んで泣く。

絶対にお前を死なせないからな。くすぐったそうに体を少し捩らせるハルカから手を退けて、俺はずっと寝顔を見て過ごす事にした。
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